十数人を殺害、50人以上の女性を暴行…アメリカ史上最大の被害を出したシリアルキラーを特定した驚きの方法とは?

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異常殺人

『異常殺人』

著者
ポール・ホールズ [著]/ロビン・ギャビー・フィッシャー [著]/濱野 大道 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784105073916
発売日
2024/01/17
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

十数人を殺害、50人以上を凌辱…アメリカ史上最大の被害を出した連続強姦殺人犯を特定した驚きの方法とは?

[レビュアー] デーブ・スペクター(放送プロデューサー)


なぜ「家系図作成サイト」だったのか

 二十年ほど前からアメリカで流行っている「家系図作成サイト」は、民間のウェブサービスです。有名なものが〈アンセストリー・ドットコム〉〈23アンドミー〉〈ジェドマッチ〉などで、本書にも登場しています。

 検査方法は、唾液を試験管に採って送るだけです。費用は会社によって違いますが、二百ドル程度です。

 なぜアメリカ人が自分の遺伝子情報を使ってルーツを調べたいかというと、養子が多い社会だからです。日本人からすると考えられないくらい、ほかの家庭に預けられて育った人が多い。

 さまざまな背景があり、韓国などアジアの国で生まれ、アメリカの養父母に育てられた人もいます。何不自由なく成長して、育ての親には感謝をしていても、本人としては自分のルーツが気になりますよね。本当の両親はどんな人だったのか。また何となく見当はつきますが、民族的なルーツも知りたい。さらに、遺伝的な病気を持っていないか確かめるという目的もありました。

 そして「家系図作成サイト」を利用する養子たちの一番の狙いは、自分にきょうだいがいないかどうかを知ることでした。記憶もないほど小さい頃に養子に出された場合、本当はきょうだいがいることがあります。むしろ子どもが二人、三人と増えるうちに育てきれなくなって養子に、というのが自然だったでしょう。

 まだ見ぬきょうだいがいるのなら、ぜひとも会いたい。生まれて初めてきょうだいに「再会」し、抱きしめ合う感動のドラマがニュースにもなっていました。じつのところ、生みの親に対しては「自分を捨てた……」と複雑な感情があるものです。実際に、実の親と再会して感激する場合もあれば、会って後悔するケースもあります。ですが、同じ立場のきょうだいは別格の存在です。ですからサイトに登録して自分の遺伝子情報をアップロードし、いつか見つけてもらえるのを待っているのです。

 もちろん、知らない方がよかったということもあるでしょう。ですが調べてみたいという人は大勢いること、そして知り合いや親戚から「よかったよ」と聞くと、「じゃあ私も」となる人が多いのは現在でも変わりません。

「黄金州の殺人鬼」事件では、「家系図作成サイト」のひとつで犯人の親戚を見つけ出したことが契機になりました。当時から、捜査に協力するサイトと協力しないサイトがあり、もちろんプライバシーについての議論も巻き起こりました。ただ、この事件は「家系図作成サイト」が長年にわたる未解決事件に役立てられた初めてのケースでした。

 なぜそれができたのか。それは通常の捜査がそれだけ行き詰まっていたことの裏返しでしょう。

新潮社
2024年1月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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