主役は感情のないアンドロイド。逆転の発想に唸る、カクヨム発のニューウェイブホラー――饗庭淵『対怪異アンドロイド開発研究室』レビュー【評者:朝宮運河】

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対怪異アンドロイド開発研究室

『対怪異アンドロイド開発研究室』

著者
饗庭淵 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041143698
発売日
2023/12/22
価格
1,815円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

主役は感情のないアンドロイド。逆転の発想に唸る、カクヨム発のニューウェイブホラー――饗庭淵『対怪異アンドロイド開発研究室』レビュー【評者:朝宮運河】

[レビュアー] カドブン

■恐怖心を持たないAIが予測不能な「怪異」に挑む!
『対怪異アンドロイド開発研究室』レビュー

第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉の受賞作が2冊同時刊行!
大注目ジャンルで生まれた全く新しいホラー作品を書評とともにご紹介します。

主役は感情のないアンドロイド。逆転の発想に唸る、カクヨム発のニューウェイブ...
主役は感情のないアンドロイド。逆転の発想に唸る、カクヨム発のニューウェイブ…

■主役は感情のないアンドロイド。逆転の発想に唸る、カクヨム発のニューウェイブホラー

書評:朝宮運河(怪奇幻想ライター・書評家)

 第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞した本作は、これまでの受賞作の中でもひときわ尖った作風といえるだろう。なにしろ主要登場人物の一人が、対怪異用に開発されたアンドロイドなのだから。登場人物のリアクションによって、読み手に恐怖や不安を抱かせるのが常道のホラーにおいて、感情を持たない自律汎用AIが搭載されたロボットをメインキャラクターに据えるのは、あまりにも挑戦的だ。
 近城大学白川研究室が、怪異調査のために開発した人型アンドロイド・アリサ。二十代女性と見まがう外見の下にセンサーカメラや集音マイクなどを搭載したこの超高性能アンドロイドは、心霊スポットの廃村や異界に通じる回送電車などに足を踏み入れ、怪しい現象に遭遇する。アリサが有する〈怪異検出AI〉は膨大なデータをもとに目の前の現象を分析し、怪異かどうかを推定する。怪異率がパーセンテージで表示されるホラー小説など、ちょっと他ではお目にかかれない。
 怪異に出くわしてもアリサの感情が揺れることはないし、データ収集のためにあえて挑発的な行為を取ることもある。人間のように怯えて引き返したり、勘違いしたりという展開もないため、怪異調査は極めてスムーズに展開する。なるほどこの設定は発明だ。そんな設定でホラーが成立するのかといえば、これが見事にホラーとして成り立っているから面白い。
その理由のひとつは、研究室の人々の感情の動き、とりわけ恐怖心が丁寧に描かれていること。大学生・新島ゆかりをはじめとして、研究室のスタッフは皆血の通った人間であり、怪異を目前にして冷静ではいられない。そもそも天才科学者・白川教授を怪異研究に向かわせたのも、怪異への恐怖だった。物語後半では、そんな白川教授の秘められた過去が、失踪中の妹・有紗との複雑な関係を通して浮上してくる。
 怪異との絶妙な距離感も大きな特徴。頻発する不可解な現象はやがて、なぜ人類は怪異に遭遇するのか、この世界はそもそも何かがおかしいのではないか、という問いへと繫がっていく。それは有能なアリサのAIでも解き明かすことができない、宇宙の究極的な謎だ。人間の認識を超えたところに広がる闇の領域。ラヴクラフトのクトゥルー神話作品を思わせるようなビジョンが、物語を恐怖と絶望で塗りつぶしていく。
 変化球のようで、ホラーのストライクゾーンを見事に貫いた魔球的長編。新鋭を相次いで輩出するカクヨムから、また一人注目すべきホラー作家が誕生した。

KADOKAWA カドブン
2023年12月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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