「わかってるなお前…」遅刻して高座でいじり倒された蝶花楼桃花が語った“落語の世界”

対談・鼎談

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今日も寄席に行きたくなって

『今日も寄席に行きたくなって』

著者
南沢 奈央 [著]/黒田 硫黄 [イラスト]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784103553311
発売日
2023/11/01
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

南沢奈央×蝶花楼桃花・対談「ゴールのないこの世界で」(後編)

[文] 新潮社

名前が変わって、気持ちが進む


南沢奈央さん

南沢 真打昇進と同時に改名もされました。新しいお名前、素敵です!

桃花 ありがとうございます。亭号まで変わるんじゃないかとは薄々予想していたんですけど、まさか蝶花楼が飛んでくるとは(笑)。

南沢 これは師匠である(春風亭)小朝師匠がお付けになったんですか? 桃花師匠のご希望もあったんですか?

桃花 私の希望ではなく、完全に小朝が考えてくれた名前です。一門で集まって、師匠が名前を書いた紙を隠しながら、「これからぴっかり☆の新しい名前を発表します! ドゥルルルル……蝶!」って一文字ずつ見せていったんです。「蝶」が見えた瞬間、「えええ! 蝶花楼!?」って、みんな大騒ぎ。

南沢 すごい発表の仕方(笑)。

桃花 蝶花楼の亭号は由緒があって憧れでしたし、桃花の字面もきれいだし、見た瞬間に気に入りましたね。

南沢 字面も響きもとても素敵な名前ですよ。二つ目になった時の、ぴっかり☆さんの命名はどういう発表の仕方だったんですか?

桃花 わりと軽く「きみ、『ぴっかり☆』ってどう?」って言われたので、「これは困ったな」と思って、「師匠のお名前から一字、小か朝をいただきたいです」とお願いしたんです。そしたらもっとおかしな名前をどんどん挙げてくるんですよ。「じゃあ『お尻』」とか「『岩田康子』はどう?」みたいな。誰なんですかね、イワタヤスコって。

南沢 もう亭号ですらない(笑)。

桃花 最後にはもう、「すみません、ぴっかり☆でお願いします!」って私からお願いする形になりました。師匠にうまいことやられましたね(笑)。南沢さんも本名ではなくて芸名ですよね?

南沢 私の場合は、当時の事務所の社長から「今日から南沢奈央ね」と言われて、紙を渡されたんです。私も選択権はなかった(笑)。

桃花 すんなり受け入れられましたか?

南沢 当時15、16歳で、しばらくは全然自分のことと思えなかったです。でも、今になると芸名があって良かったですね。プライベートと仕事を分けられるし、自然と仕事のスイッチも入るし。でも、落語家さんみたいに、キャリアと共に名前が変わっていくのとはまた全然違う話ですけど。

桃花 南沢さんがやがて二代目杉村春子とか襲名することもないですしね(笑)。落語界は確かに不思議な世界で、名前が変わった瞬間から、一門に限らず、楽屋のみんなが次に会うと「桃花さあ」って普通に呼んでくれるんです。ためらいとか照れとか全然なし。

南沢 ナチュラルなんですね。

桃花 この自然な変化は面白いなあと改めて感じます。周りに呼んでもらって「そうか、私は桃花だ」と慣れていく感じでした。

南沢 昔から知ってると、慣れや親しみもあって、つい前の名前で呼んでしまいそうなものですよね。それが礼儀でもあるんでしょうね。

桃花 「師匠」と呼ばれるのもそう。落語協会に電話した時、「師匠が、師匠が」と言われて、どの師匠のこと言っているのかなと思ったら、私のことだった。

南沢 ちゃんと「桃花師匠」と言ってくれないと気づかない(笑)。前座、二つ目時代は名前だけで呼ばれてたのが、初めて「師匠」と呼ばれるわけですもんね。俳優にその変化はないなあ。

桃花 「座長!」くらい?(笑)

南沢 昇進していって、呼び方、名前が変わっていくことで、気持ちなり意識なりもちゃんと前に進んでいくんでしょうね。

桃花 それはあります。同時に自分で二つ目の頃を「ぴっかり☆時代」と思えるようになったのは大きいかも。別物になるというか。

南沢 自分の中できちんと節目になりますね。羨ましいな(笑)。

着付け/山口さくら ヘアメイク/高畑奈月 衣装協力/branch(以上、南沢氏) 撮影/青木登

新潮社 波
2023年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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