「一日一組限定」の「家族葬」…葬儀社に勤めていた作家が語る“理想”の葬儀とは

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夜明けのはざま

『夜明けのはざま』

著者
町田 そのこ [著]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591179802
発売日
2023/11/08
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

町田そのこ最新刊『夜明けのはざま』インタビュー:ままならなさに歯噛みする、誰かに寄り添う物語!

[文] 日本出版販売(日本出版販売)

■タイトルの「夜明け」が意味するもの

――『夜明けのはざま』というタイトルは、どのような思いで付けられたのですか?

「夜明け」という言葉は比喩的に使われることがありますよね。ただ、どの時点をもって夜明けとするかは、個人差があるのかなと。少しでも空の色が変わったらという人もいるでしょうし、太陽が少しでも見えたらとか、白々と明けてしまってからという人もいるでしょう。

それと同じで、死生観であったり、悩みの乗り越え方であったり、さまざまなものに「あわい」があって、「ここが夜明け」とは決められない。明るくなってからやっと「おはよう」と言える人は、まだ暗いうちから「おはよう」と言う人とは感覚が合わないでしょうし、逆になんでこんなに明るいのにダラダラしているのだろうと相手に不満を持つ人もいるでしょう。

結果的に、そんないろいろな意味合いを示すタイトルになったかなと思っています。

――価値観をわかり合うこと、貫くことなど、たくさんのしがらみの中で自分らしく生きる難しさが描かれている本作に、まさにぴったりのタイトルですね。

自分自身があまりうまくは生きてこられなかったので、後悔の塊なんです。諦めずに戦っていたら、もっと早く作家になれたのではないか、違う未来があったのではないかと思うことばかりなので、そのもどかしさも入っているのかもしれません。

その分、いま迷っている後進の人たちに、こういうやり方もあるよと考えるきっかけにしてもらえればいいなと。自分が20代半ばに読んでいたら、「私もこんなふうにがんばってみようかな」と思える物語になっていればと思います。

――小説を書く際には、そういったメッセージも意識して書かれるのですか?

最初からそこまで考えていたわけではないんです。それこそ「生きていくとは」という大雑把なテーマで書き始めて、私自身、迷いながら書いていくうちに、三章でようやく、生きづらさを抱えたり、目の前にある障害を恨んだりしている人たちが、それをどう乗り越えてその痛みを受け入れていくか、後悔を消化していくかという物語を書きたいのだと気づきました。

おぼろげながら自分の行きたい方向がわかったら、そこから修正を重ねて、手探りでここまでたどり着いた感じです。

――佐久間も葬儀社というハードな仕事に取り組みながら、仕事への覚悟や尊厳をつかんでいきます。生と死との葛藤を通して描かれる、そうした過程も本作の読みどころですね。

自分自身が回り道をしながらやっとこの仕事に就けて、だからこそ仕事に対して不誠実なことはしたくないですし、そのほかのことは本当に自堕落なんですけれど、仕事だけは真面目にやろうと思っています。

佐久間も仕事にすごく誇りを持っていますが、さまざまな事情であきらめざるをえないような状況になっています。私はたまたま、そういったものを全部取っ払ってでも進めとまわりのみんなが言ってくれるのでやりたい仕事ができていますが、これだけ社会が変わっても、女性は結婚や出産などライフステージが変わるたびにスタイルの変更を余儀なくされています。だからこそ、仕事にプライドを持つ女性を書きたいなと思っていました。

もちろん、主婦として家庭を支えていくという生き方もあっていい。ただ、自分がやりたい仕事を貫き通したいと思ったときには、「そういう生き方もあるよね。昔は難しかったらしいよ」という時代がくればいいなと。

私の憧れであり、心の支えでもあった氷室冴子さんは、少女小説は「処女でなきゃ書けないんでしょ」と言われた怒りをエッセイに書かれています。ほかにもたくさんの女性作家が、受けた差別や偏見を大きな声で潰していってくれたから、私はそういった苦しみを一切知りません。

どんなジャンルでも同じ現象が起きたらいいなと感じていますし、私も今後、万が一そういうことがあったときは、後進のためにそれはダメと言える人間でありたいなと思います。

――佐久間の友人の「『先に行け』って言える女になる」というセリフはまさに粋な一言ですね。そんな、さまざまな思いが込められている本作ですが、今後はどういった作品を描かれるご予定ですか?

10月からWEBマガジンの「STORY BOX」で、サスペンスの連載がスタートしています。

――サスペンスとはまた、ご自身にとっての新境地ですね。

男女が死体を埋めているシーンから始まります。いまは監禁事件などの本ばかり読んでいるので、気分がかなりブルーです……。

本作で、これだけ「生きていくことを大事にしよう」といいながらの殺人なので、自分でも「振り幅が……」と思うのですが、正統派の恋愛小説や児童小説など、書きたいものはたくさんあります。これからもさまざまなジャンルにチャレンジしていきたいです。

 ***

町田そのこ
まちだ・そのこ。1980年生まれ。福岡県在住。2016年「カメルーンの青い魚」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。翌年、同作を含むデビュー作『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を刊行。2021年『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞。著書に『ぎょらん』『うつくしが丘の不幸の家』「コンビニ兄弟」シリーズ、『星を掬う』『宙ごはん』『あなたはここにいなくとも』などがある。

取材・構成:ほんのひきだし編集部 猪越

日本出版販売 ほんのひきだし
2023年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

日本出版販売

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