『ブラックバースデイ』
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川の字で眠った夜に
[レビュアー] 麻加朋(作家)
新人賞受賞後第一作となる『ブラックバースデイ』がこの度、刊行された。
子どもだった自分と母親となった自分を行き来しながら、親子というものに想いを馳(は)せて執筆していた。そんな日々を過ごす中、あるメロディーが頭に流れてきた。
「ねんねんころりよ おころりよ 坊やはよいこだ ねんねしな」
今でも歌われているのかわからないが、私はこの子守歌が苦手だ。苦手というか、弱いと言った方が当たっている。
私は出産後、夫の出張の度に、子連れで実家に泊まりにいった。ある夜、母がこの子守歌で私の子どもを寝かしつけていた。母と私と幼い子どもの三人が横たわる静かな空間に、寂しげな調べだけが響く。すると、私の目からみるみる涙が溢れてきた。かつて歌ってもらった頃の記憶が蘇ったのだろうか。本当の理由は今もわからない。とにかく泣けて泣けて仕方なかった。親になった自分が母の子守歌に泣くなんて、恥ずかしいのでさりげなく背を向けた。それ以来この歌を聴くと感情が揺さぶられ、自分でも歌えなくなった。「親子」と聞いて私が連想するのは、今でも「ねんねんころりよ」の子守歌だ。「親子」という関係は、どこか切なくもの悲しい。
本作『ブラックバースデイ』は、鎌倉と瀬戸内海の離島を舞台に、誕生日を発端とした秘密が絡み合い、激しく揺れ動く家族の物語だ。将棋カフェを営む父と二人で暮らす主人公、駒之介(こまのすけ)。突如、隣に謎めいた二組の親子が越してきた。
人目を避けるような様子がいかにも怪しくて興味本位に探っていくが……。交錯するそれぞれの想いに翻弄されながらも、駒之介は真相を追い続ける。
ミステリーとしての謎解きと、哀しみや憤り、ハラハラドキドキ感など、様々な感情を皆様にお届けできる小説になっていれば、と願っている。