『現代日本経済史 - 現場経済記者50年の証言 -』
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経済学の素養に秀でた記者の取材に基づく現代史の証言
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
著者は日本の経済ジャーナリストを代表するひとりだ。個人的には「最も優れた」という形容詞をつけたい。日本の政官財の欲望渦巻く世界、ワシントンでの覇権国家アメリカの生々しさ、打算に秀でた中国の政治家たち、そして長期停滞の舞台裏までを、現場での取材を豊富に交えて描き、現代史の証言として面白い。
田村氏が経済ジャーナリストとして最も優れているのは、現場体験を踏まえ、客観的なデータとそれを的確に読み解く経済学の基礎がしっかりしているからだ。当たり前のようでいて、経済学を適切に現場で応用できる記者は日本にはほとんどいない。日本の経済記事の後進性はひどいものなのだ。
取材対象との距離感も素晴らしい。日本の記者たちはしばしば取材対象と懇意になりすぎてしまい、忖度を重ねる「御用記者」が多い。いまでも財務省のご機嫌をとるかのような緊縮財政記事ばかり書いている。このような安易な姿勢とはきっぱり決別しているところが、田村氏の真骨頂だ。このことを示すエピソードがある。経済政策観では共通点が多かった安倍晋三氏にも、政権の座にいた時に「消費増税は失政だ」と何度も批判した。のちに安倍氏は「筆誅を加えられました」と反省し、著者に今後の経済政策の助言を求めた。
本書では、プラザ合意や日米貿易摩擦などを背景にして、日本の経済政策と当局者たちがいかに対米従属的であるかが、批判的に描かれている。
日本を長期停滞に陥らせて、また財務省に一極集中的な権力を与えている財政法というものがある。これはGHQが日本を戦後復活させないために残した負の遺産だ。今も財務省は財政法を利用し、緊縮財政で国民を痛めつけている。
最近は対米従属だけでなく、対中従属もひどい。日本の本当の独立を経済ジャーナリストとして願う著者のハートは熱く、分析はクールだ。