『統合失調症の一族』
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遺伝と環境のあいだで実話だけを積み上げた一大絵巻
[レビュアー] 都築響一(編集者)
500ページを超す精神医療史のドキュメンタリーというハードルが高そうな一冊でありながら、原書はアメリカで大ベストセラー、日本でもすでにSNSで話題沸騰の本書。コロラド州に住む一家が12人もの子宝に恵まれつつ、そのうち6人が統合失調症を発症する驚くべき症例を通して、戦後アメリカの生活史を活写してくれる。まずその分厚さに怯むが、終わったと思ったらまた走り出すジェットコースターのように、テレビの前から離れられない長編韓国ドラマのように、読み手を掴んで離さない。文章も素晴らしく平易で、それは翻訳もいいのだろう。
いま約100人にひとりがかかるという統合失調症は、けっして珍しい病気ではない。しかし発症の原因は解き明かされておらず、根本的な治療法も確立していない。それが遺伝によるもの、つまり患者が生まれる前に起因するものなのか、生育する環境によるものなのかが本書の主要なテーマである。
同時に12人の子どもと両親から成る一家は、ベビーブーム時代のアメリカでさえやや特殊な大所帯だったとしても、特に裕福でも貧しくもない。そんな普通の家族が普通の生活を送りながら、いつのまにか歯車が少しずつ狂っていく。精巧につくられたホラー小説のようでありながら実話だけを積み上げて描き出した、これはアメリカン・ライフという名前の一大絵巻物でもある。
おそらくは遺伝と環境のあいだで入り組んだ場所から生まれる統合失調症の様相をひもときつつ、著者は「私たちが人間らしさを備えているのは、周りの人々が私たちを人間たらしめているからにほかならない」と語る。
ひとりだけで完璧な人間になることはできないし、不幸や失敗をすべて周囲のせいにすることもできない。ひとつの病気、ひとつの家族から始まる知の壮大な拡がりを、この本は僕らに見せてくれている。