『読書会という幸福』
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もう孤読じゃない! 読書会という救済
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
理由はともかく本は読まないというアナタは、ここでお引き取りを。一方、本なしでは暮らせないというアナタには、この『読書会という幸福』を激推しします。
中高一貫校の図書館の司書でもある翻訳家・向井和美が教えてくれるのは、グループで本を読むことの愉しみや効用だ。課題作品を読んでおく狭い意味での読書は、会合前に独りで済ませておくとして、頭に入れた言葉を解きほぐし、その奥に分け入ったり別の意味を見出したりという広い意味での読書が、自分以外の読み手と語りあうことでどれほど深まり、拡がるか。それはたとえば、カズオ・イシグロの『日の名残り』文庫版の解説における丸谷才一の“誤読”に触れた部分からもよくわかる。
孤読の先にある群読の力を説く著者のベースは、30年近く出席している月イチ読書会での体験です。1980年代に老若男女で始まり、今も40~80代の女性で続く会が、長い『チボー家の人々』から短い『老人と海』まで計180作ほどを読み解いてきた記録は、フィクションについてのノンフィクションという“メタノンフィクション”でもあって、大きな読みどころ。
もうひとつ、単なる群読の勧めを超えたパワーをこの本に与えているのは、人を殺すことを考えるほどの不幸を経験したらしい著者が読書と読書会に救われたという個人的な告白。「おわりに」の文末で次に読む本への期待が前向きに明かされるとき、救済されるのはワタシだけではないはず。