『国民安全保障国家論 世界は自ら助くる者を助く』
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ウクライナ侵攻後最悪のシナリオ「日米中の罠」を回避するには?
[レビュアー] 田原総一朗(ジャーナリスト)
船橋洋一氏の『国民安全保障国家論』について記す前に、日本が世界の少なくとも先進国とされている国の中では「例外的に奇妙な国」であることを記しておく必要がある。
安全保障について、野党各党は全く現実性のない理想論を掲げ、自民党の歴代首相は誰もが安全保障問題から逃げてきた。安全保障を主体的に考えること自体が危険きわまりないととらえて米国に委ねてきたのである。
少なくとも戦争を知っている世代の首相たちは、戦前の日本が安全保障を主体的に考えた為にヨーロッパの先進国や米国に対抗できる軍事強国にならなければならないという意識をかきたてられて軍部が血気に逸り、それをおさえこもうとする政治家たちは5・15事件、2・26事件などで殺害されて勝つ見込みが全くない太平洋戦争に突入せざるを得なくなった、と、とらえている。だから安全保障を米国に委ねてきたのである。だが米国は、世界の安全保障の責任をもてなくなった、と表明した。
つまりパックス・アメリカーナを実質的に放棄せざるを得なくなったのである。
ウクライナ戦争が始まると、日本では台湾有事を想定して軍事力強化を求める声が強まった。
だが船橋氏は、米国やNATOの国々がロシアのウクライナへの武力侵攻は十分阻止できたのにプーチンを甘く見てそれを怠った、と具体的な事例をあげて示し、これからの時代、最もおそろしい「日米中の罠」は米中対決の中で日本が選択肢を失う罠である、と強調する。
そしてそうした事態をおこさせない為に、中国に日本の自国防衛の意思と能力、日米同盟の抑止力の有効性、科学技術力とイノベーションの力を常に理解させるべきである、と主張し、同時に、日米が中国を全面的な敵性国と決めつけ、それが中国の排他的民族主義を煽り、双方とも後戻りができなくなる状況を避けるべきだ、と記している。
日米中とも相手の意図を正確に把握すること、そしてパーセプション・ギャップを埋める為、不断の対話をすることが必要である、というのだ。
実は、1980年代、つまり中曽根内閣の時代に、当時官房長官であった藤波孝生や、森喜朗、加藤紘一、羽田孜諸氏らから、これからの日本を考える勉強会をつくろうと誘われて、その時に朝日新聞の船橋洋一氏らを誘い込んだ。船橋氏とはその時代からの、いわば同志なのである。
船橋氏は現実をふまえながら、あくまで理想を追求する貴重な存在である。