『それでも日々はつづくから』
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フィクションより格好悪くて滑稽で切ない現実
[レビュアー] 猫組長(猫評論家・エコノミスト)
週刊新潮の記者から連絡があった。「また何か書かれるのか」と少し身構えたのだが違った。
燃え殻さんの新作エッセイ『それでも日々はつづくから』の書評を書いて欲しいという依頼だ。猫組長による燃え殻の書評とかちょっと笑う。
燃え殻さんとは一時期同じ週刊誌で連載コラムを書いていたことがある。彼がその週刊誌に登場したのは、僕が連載を始めてから2年半くらい後だ。
燃え殻って何だよ、と思いながら彼のコラムを読んでみると、これが何とも面白い。そしてやたらと文章が上手いのである。すぐに担当編集者へ電話して「燃え殻って何だよ」と聞いたくらいだ。
正直言って僕は焦った。田舎の高校でそこそこ人気者の地位を得て満足な日々を送っていたところに東京からイケメンが転校してきたという感じである。
きっと性格が悪く嫌な奴に違いない。そもそも名前が変だ。猫組長という名前がまともに思えるくらい変だ。
気になって「燃え殻」を検索すると産業廃棄物についての文献が出てくる。少し落ち着いた。
それからは燃え殻さんのコラムを欠かさず読んだ。デビュー作の小説も買った。気が付けば、僕は燃え殻さんの熱狂的なファンになっていたのだ。
燃え殻さんは何でもないことを面白く書く天才だ。これは持って生まれたセンスなのだろう。そして、文章が美しくロマンティックなのである。
『それでも日々はつづくから』は日常を綴ったエッセイでありながら、どのエピソードも小説的でドラマティックなのだ。
読んでいて感じるのは、「ああ、あるある、うんうん、分かる」という共感だ。
この作品の中で僕が一番好きなのは、目黒川のほとりにあるカフェで、彼女とお別れするエピソードだ。たったの1500文字で、3年半付き合った彼女がとても素敵な人だったこと、燃え殻さんの不甲斐ないけど優しいダメ男ぶりが分かる。
切なさと滑稽さがとてもリアルで、店内の匂いや音まで伝わってきそうだった。フィクションだとこうはいかない。現実なんて想像より格好悪くて滑稽なのだ。
「でもそれでいいんだよ」
燃え殻さんにそう教えられた気分だった。下手な教科書より生きていく上で役に立つ本だ。
人生は楽しいことより、悲しいこと、つらいことの方が多い。苦しくて逃げ出したい時だってある。
でもきっと大丈夫。それでも日々はつづくから。