『新装版 天声美語』
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地球人を美で救い賜うラスト・カリスマ
[レビュアー] 今井舞(コラムニスト)
「私たちはこの地球に修業にきている」。帯に記されたこの一言から、既にワールド全開。人生の傑人ともいえる著者が、愛、美意識、人間性、お洒落、文化、そして森羅万象あらゆる物について語ったエッセイ。20年も前に書籍化された雑誌連載の新装版だが、著者の揺るぎない価値観は、今も古びることなく、オーラの目盛り(強)。コロナ禍も含めた現在を予見していたかのような記述も散見される。
有形無形の美を追求し、美人を超えた麗人たれと説く著者。個としての振舞いだけでなく、世の中全体にも活を入れる。会社の実績と関係がない株式経済を「ただのバクチ」、20年前持ち上がったマイナンバー制度は「国民統括のための背番号制度。盗聴法、憲法改正とあわせた先に戦争の足音がする」と危険視。「衆愚政治の結果、不景気や就職難、いろいろなところにシワよせがきている」とも。
一般市民に対しても「何も考えず、ニュースにも耳を傾けず、楽しいことばかり追いかけてのんべんだらりと生きて行く。そういう態度が悪徳政治家たちにどれだけ都合がよいことか」。……すんません。評論家については「その道の成功者になりたくてもなれなかった連中がする商売」。すんますんません。
思わず傾聴させられるお言葉の数々。ほとんど教祖の佇まいの著者であるが、信仰と宗教は別物と説く。信仰とは神に近づこうとする作業のこと。自分の感情の負の部分を反省し軌道修正を何百回と積み重ねていくと、びくともしない全人格的なものになっていく。この地球は、自分を高めていく作業場である、と。おおー。対して宗教とは、神様と人間の間に立ちはだかって商売をすることであると。おおおおー。宗教団体も傾聴しろや。
「舞台装置はこの世の中全部」と思って人生を過ごして来たという著者。付き合う相手を選ぶことでも美意識は磨かれると。ちなみに著者が親しくしていたのは、三島由紀夫に江戸川乱歩、寺山修司に横尾忠則。……何をどう参考にすれば。市井の徒とのあまりの隔たりに、地球が修業場どころか重馬場に感じられるが。麗人目指して精進あるのみだ。