刑事・森口泉シリーズ第2弾 彼女が対峙する驚くべき黒幕とは

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

月下のサクラ

『月下のサクラ』

著者
柚月裕子 [著]
出版社
徳間書店
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784198651534
発売日
2021/05/15
価格
1,870円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

刑事・森口泉シリーズ第2弾 彼女が対峙する驚くべき黒幕とは

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

『朽ちないサクラ』に続く刑事・森口泉を主人公とするシリーズの第2弾。

 冒頭から緊迫感あふれる追跡劇が展開するが、ここにはちょっとした仕掛けが施されていて、私達は作者に軽くいなされてしまう。

 森口は、事件現場で収集した情報を、解析、プロファイリングし、解決へと導く機動分析係を志願するが、実技試験に失敗してしまった。それでも係長の黒瀬の強い引きにより無事配属。周囲からは特別扱いと揶揄される。

 森口は、自分への周囲の眼を撥ねのけ抜群の記憶力を買ってくれた黒瀬の期待に応えようとする。

 そんな折、会計課の金庫から一億円近い金が盗まれている事が発覚する。

 分析係総出で捜査が始まるが、やがて犯行は内部の者による可能性が濃厚となってくる。

 捜査線上に浮かんだのは、会計課の元責任者・保科で、早期退職してから四回署を訪れていた。保科には、消費者金融に三千万円近い借金があり、これがきれいに清算され、母親を、介護付き有料老人ホームに入れていたのだ。

 その保科が変死を遂げた事から、事件は俄かに別の様相を帯びる。

 森口は、自分達以外にも、保科を警視庁公安部外事第二課がマークしていた事を知る。さらに、黒瀬が収賄および犯人隠匿の疑いをかけられ、謹慎処分を命じられてしまう。

 その過程で明らかになる黒瀬の痛ましい心の傷。

 ミステリーのこと故、詳述は出来ないが、恩人黒瀬に報いるために、驚くべき黒幕と一人で対峙する事になる森口。黒幕との対峙は、そのまま、刑事、公安は言うに及ばず、警察組織全体、司法をも含めた腐敗との対峙に他ならない。

 どちらかと言えば器用ではないが、まっすぐに進む森口の姿に胸のすく思いがする。

新潮社 週刊新潮
2021年6月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク