UFOを待ち望む人々を描いた異色作や精神分析医のサイコ・サスペンスなど、三島由紀夫を好きになる7作品〈新潮文庫の「三島由紀夫」を34冊 全部読んでみた結果【中編】〉

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美しい星

『美しい星』

著者
三島 由紀夫 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101050133
発売日
1967/11/01
価格
737円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

34冊! 新潮文庫の三島由紀夫を全部読む[中編]

[レビュアー] 南陀楼綾繁(ライター/編集者)

・UFOを待ち望む人々 『美しい星』(一九六二年)

 埼玉県飯能市の大杉家の四人は、それぞれが空飛ぶ円盤を目撃したことから、自分たちはほかの天体からやってきた宇宙人だと信じる。父の重一郎は「宇宙友朋会」を組織して、地球の平和を守ろうとする。

 一方、仙台の羽黒ら三人は地球の破滅を待望し、重一郎に論戦を挑む。私は中学生の頃、「三島が書いた唯一のSF」と聞いて本作を読んだが、後半で延々と議論が展開されるのに辟易した覚えがある。解説で奥野健男が「世界の現代文学の最前列に位置する傑作」と絶賛するのに、本当かよと思ったものだ。

 今回読み返しても、議論の部分は退屈だ。ただ、三島自身が空飛ぶ円盤に関心を抱いていたこともあり、重一郎らが雑誌を通じて啓蒙活動を行なう様子がリアルだ。また、娘の暁子が同じ金星出身だという青年に体を任せ、妊娠するが、男は姿を消すというエピソードは滑稽で悲しい。

 また、舞台となる飯能という町の描写もいい。

「街燈のあかりがまだ一列にのこる飯能の町から、六時の鐘音が昇ってきた。畑のみどりや蔵の白壁はみずみずしく、二三羽の鴉が目の前を斜めに叫びながら飛び過ぎた。西南には山王峠から南へ走る山々が揃って現われ、天頂の雲もすでに緋に染まっていた」

『三島由紀夫事典』(明治書院)によれば、「平凡な都市の中で、三島が飯能ほど詳細に描写した都市はない」という。

 三島はよほどこの町を気に入っていたのか、一九六八年に刊行した最後のエンタメ系長編『命売ります』(ちくま文庫)でも、主人公を飯能に向かわせている。

・「十四歳」の物語 『午後の曳航』(一九六三年)

 横浜に住む未亡人の房子は、息子で十三歳の中学生・登を不良少年と遊ばせないために、夜になると部屋の外から鍵をかける。登は部屋の穴から母親の寝室を覗き、母と航海士の竜二の情事を見る。登はたくましい体を持つ竜二を崇拝するが、竜二が船を降りて母と結婚することに嫌悪を感じる。

 少年団の「首領」は、「世界の空洞を充たす」ために、団員に猫を殺させる。登の訴えを聞いた首領は、竜二を人気のない場所に呼び出して、睡眠薬の入った紅茶を飲ませる。

 本作はこの場面で終わるが、三島は全裸にされた竜二が少年たちによって解剖される場面も原稿に書いていたという(井上隆史『暴流の人 三島由紀夫』平凡社)。

 十四歳未満の犯罪は刑罰に問われないことを知っている首領は、このように云う。

「『これが最後の機会なんだ』と首領は重ねて言った。『このチャンスをのがしたら、僕たちは人間の自由が命ずる最上のこと、世界の虚無を填めるためにぜひとも必要なことを、自分の命と引換えの覚悟がなければ出来なくなってしまうんだ』」

 十四歳で思い出すのは、一九九七年の神戸連続児童殺傷事件だ。犯人のAが十四歳だったことや、動物を虐待していたこと、「さあゲームの始まりです」ではじまる挑戦状を送りつけたことなど、本作に重なる点が多い。

 この事件以降、貴志祐介の『青の炎』など、少年の犯罪を扱う小説が増えたが、『午後の曳航』はその先駆けだったと云えるだろう。

新潮社 波
2021年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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