【自著を語る】森沢明夫が感じた、日本の閉塞感の正体とは……? 新刊『ぷくぷく』は、閉塞感のなかから「希望の糸」をたぐって出来上がった、ふしぎな「詩」小説

レビュー

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ぷくぷく

『ぷくぷく』

著者
森沢 明夫 [著]
出版社
小学館
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784093865623
発売日
2019/11/27
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ふしぎな「詩」小説

[レビュアー] 森沢明夫

高倉健最後の主演映画『あなたへ』の小説版を手がけ、多くの作品が映像化に関わっている森沢明夫。新刊『ぷくぷく』を書こうと決めたのは、自分の置かれた「環境」という名の「壁」による閉塞感に息苦しくなったときに「『違い』と『嫌い』は別物なのになぁ」という根源的な思いに背中を押されたからだと言います。

 ***

 誰の人生にも「壁」は付きものです。
 しかも、その「壁」の種類は色々で、努力をすれば越えられる「壁」もあれば、あまりにも高すぎて、もはや絶望すら抱かせるような「壁」もあります。
 最もよくある身近な「壁」といえば、それは自分の置かれた「環境」というやつかも知れません。
 たとえば、どんな親のもとに生まれたか、どんな国に生まれたか、どんな学校で、どんなクラスに入れられたか、どんな肌の色に生まれたか、あるいは心身にまつわる障害の有無なども──。
 この「環境」という名の「壁」は時にやっかいで、一筋縄ではいかないケースがあります。しかも、そこにはしばしば差別やヘイトが生まれてしまいます。
 いまの日本(世界もそうですけど)には、そういう嫌な「壁」がずいぶんと増えてしまって、なんだか閉塞感が出てきた気がしませんか? ぼくは、この数年でかなり息苦しさを感じるようになりました。そして、息苦しさを感じるたびに、よくこう思うのです。

「違い」と「嫌い」は、別物なのになぁ──。

 小説『ぷくぷく』を書こうと決めたのは、そういう根源的な思いに背中を押されたからだったような気がします。
 この国の閉塞感のなかから、ぼくなりに細くて頼りない一本の「希望の糸」を見つけ出し、それを丁寧にたぐるような気持ちで言葉を編んでいったら、自然とこういう小説が出来上がりました……。
 ちょっと格好つけていうと、そんな感じで書いた作品なのだと思います。
 当然ですが、作中のキャラクターたちの前にも様々な「壁」が立ちはだかります。そのとき彼らは、目の前の「壁」をどう眺めて、どう感じ、どう立ち向かい、そして最後は、きっちりと乗り越えるのか、あきらめるのか、どこかで折り合いをつけるのか……。
 ぜひ、読者の皆様には、彼らの「愛すべきじたばた」っぷりを見届けてやって欲しいと思います。
 物語の舞台は、ほとんどが「金魚を飼っている若い女性の部屋」です。なので、登場するキャラクターも少ないですし、とてもシンプルな物語になっています。シンプルな物語なのに長編ということは、つまりは「深掘り系」の小説ということなのでしょう。多分。
 あ、ちなみに──、この『ぷくぷく』は、これまでのぼくの作品とは毛色が違うと思います。
 その理由はふたつあります。
 ひとつ目は、設定がとても突飛であること。
 ふたつ目は、あえて全編にわたってポエティックな雰囲気に仕上げていることです。
 静かな雰囲気の詩を読んでいたら、それがいつの間にか物語になっていて、気づけば登場するキャラクターたちの世界に引き摺り込まれて、そこから帰りたくなくなってしまい──。
 読みながらそんな感覚に陥って頂けたなら、著者としては非常に嬉しいです。
 ようするに「私小説」ならぬ「詩小説」なのです。
 個人的には、オチが気に入っています。読者はきっと、最後の最後で「えっ?」と驚いてくれるはず。
 もちろん、いつも通り伏線はたくさん張り巡らせてあります。読者がふつうに気づくレベルの伏線から、百回読んでも気づかれないような「物語の深層に埋め込んだ伏線」まで多種多様です。
 一風変わった「詩小説」、ぜひ、お楽しみ下さい。

小学館 本の窓
2020年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

小学館

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