『私のイラストレーション史』
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イラストレーターが輝いていた“あの頃”を振返る自伝エッセイ
[レビュアー] 都築響一(編集者)
本や雑誌記事には挿画がつきものだが、その描き手を最近はイラストレーターではなく、アーティストと呼んだりする。
でも、たった20年か30年前の日本では、アーティストよりイラストレーターのほうが、明らかにファッショナブルだった。詩人よりコピーライターのほうがモテたのと同じく。
漫画家であり、イラストレーターであり、エッセイストでも編集者でもある南伸坊の自伝的な新刊『私のイラストレーション史』を読んでいるうちに、あの時代の出版メディアにたぎっていた熱気が甦ってきた。
水木しげるや和田誠に出会った少年時代から、美学校の生徒として赤瀬川原平に師事した学生のころ、奇跡的な漫画雑誌『ガロ』の編集者として共に闘い遊んだ湯村輝彦、安西水丸、渡辺和博……。それぞれの作家とのきわめて個人的な思い出から始まって、彼らがその時代をどう動かし、受け入れられてきたのか、描き手であると同時に編集者としての立場からの見方も合わせて、的確にまとめられている文章が読んでいて気持ちいい。そしてまた驚異の顔真似「本人」シリーズのように、取り上げたそれぞれのイラストレーター本人が憑依したかのような挿画も素晴らしい。「似せること」の本質が敬意であり、愛であることをあらためておしえてくれる。
イラストレーションはもちろん日本の発明ではないけれど、日本独自の発展を遂げた分野でもある。アートとイラストレーションの境目を行き来する表現者は世界中に現れたが、イラストレーションと漫画という分野をこんなふうに横断することができたのは、もしかしたら日本だけの現象だったかもしれない。
それだけ日本の漫画がほかのどの国とも違う表現に育っていって、そこにイラストレーターと呼ばれた作家たちの果たした役割も大きかったことを、伸坊さんが、こんなにもわかりやすく明らかにしてくれたのだった。