成長し続ける会社の絶対条件。これから求められるリーダーシップとは?

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最高の組織──全員の才能を極大化する

『最高の組織──全員の才能を極大化する』

著者
大賀 康史 [著、企画・原案]
出版社
自由国民社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784426125110
発売日
2019/03/01
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

成長し続ける会社の絶対条件。これから求められるリーダーシップとは?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

全員の才能を極大化する 最高の組織』(大賀康史著、自由国民社)の著者は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」創業者。

「起業」をテーマに掲げた2015年の著作『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』(ソシム)に次ぐ本作では、「成長しつづける会社」の絶対条件を明らかにしています。

私は10年間を経営コンサルタントとして過ごした後、5年前に本の要約をウェブやアプリで提供するサービスである「flier(フライヤー)」を共同創業メンバーとともに立ち上げた。

初めの1年は目の前の挑戦や判断に迷うことが多く、毎日右往左往して過ごしていた。 本来の自分を取り戻してきたのは、創業して2年ほど経ったころからだろうか。

その頃から既存の組織論を中心とした経営理論で感覚が合わないものに抵抗しながら、理想の組織を追い求めてきた。(「はじめに」より)

そんな著者は、組織をきちんと理解しようとするなら、まずは人に対する洞察を深めなければならないと説いています。

メンバーの人生の目的を、各人が本来持っているものから「会社の成長に貢献すること」に上書きしようとすべきではないとも。

人生の目的は人それぞれ違うものですが、一人ひとりが毎日を豊かに生き、その人にとっての幸せな生活を追求することのほうがずっと大切だという考え方。

そして人がそれぞれ違っていて、理想のあり方がひとつではないように、組織にも絶対的な正解の形はないといいます。ただし、それでも一定の法則は存在しているもの。

そこで本書において著者は、既存の多くの組織が持つ課題と、その解決策を体系的に展開しようとしているわけです。

さらには理想の組織を追求する姿勢と、そのための人材採用の育成の考え方をも示しているのだといいます。

きょうはそのなかから、第4章「これからのリーダーシップとは」に焦点を当ててみたいと思います。

掲げるべきミッション

会社の存在理由は、もはや雇用の創出ではないと著者は断言しています。

社員側も「給料をもらっているからずっと我慢しなければならない」という先入観を持つ必要はなく、どうしてもやりたい仕事であるか、あるいは飛び抜けて高い報酬をもらっているのでなければ、長期的な我慢をする理由はないというのです。

だとすれば、会社はなぜ存在すべきなのでしょうか?

この問いに対して著者は、「会社が掲げるべきミッションは、その会社ならではの、その会社だけが実現する世界あるいは人への貢献」だと記しています。

それも、なるべく遠大なミッションを掲げたほうがいいのだというのです。その理由は次の2点です。

(1) 人は明確にイメージできたものの多くは実現できる。できるだけ、高いものを目指すことで、到達点が変わってくる。

(2) 参加するメンバーの生きる目的と合致しやすくなる。

(121ページより)

まず重要なのは、より高い到達点を設定し、それを目指すこと

そして、できるだけ壮大なミッションを持った会社のほうが、メンバーはそれを実現する過程で、自分の生きる目的を達成しやすくなるということ。(120ページより)

合理的↔︎情熱的ではない

「合理的」と「情熱的」は、対極にあるものとして捉えられがち。ところが、それは真理に反していると著者は言います。

情熱的な人が非合理的なわけではなく、成功する経営者の多くは、さまざまなリスクやシナリオを想定し、常に対処策をシミュレーションしているもの。

情熱を持って覚悟を決めたうえで、事前に準備できることに関してはひとつひとつ対処していくということ。それは一見すると難解そうですが、高度に合理的なプロセスなのだそうです。

では、どうやって情熱と合理性を同居させればよいのでしょうか? それは、自分を常に高める努力を怠らないこと。

実はあまり知られていないことだが、一流の経営者の多くは本および人から常に学び続けている。感性だけで、経営が行える人はほとんどいない。感性の強い人でも、何らかの方法で常に自分を高めているのである。

1人の人間として経験できることには限界がある。

だから、本で疑似体験して他の人が人生を通じて得られた教訓や学びを吸収するか、人から直接聞く、という方法が有効なのである。

優れた経営者に直接話をしてみると、実は本から多くの学びを得ていることが多い。(125~126ページより)

不確実性の高い企業経営が過去の経験だけで円滑にまわるほど、甘い世界ではないということ。

仮に本は読まないと公言していたとしても、その経営者は必ずそれに代わる努力をしているもの。一流の経営者はみな、情熱を保ちつつ、企業にいい循環を呼び起こせるように例外なく努力しているということです。(124ページより)

人に誇れる組織とは

著者は、会社の力は次の式で定まると考えているそうです。

人の力×プラットフォームの力(あるいはサービスの力)×ビジネスモデルの力 (127ページより)

まずは「ビジネスモデルの力」について。

優れたビジネスモデルを考えるために必要なのは、さまざまな企業の収益の源泉を知ること。多様なビジネスモデルを知っていれば、自分のサービスの特性の理解が進んだ段階で、望ましいビジネスモデルを見いだすことができるわけです。

プラットフォームの力」は、サービスの使い手に見えるものもあるでしょう。Webサービスであれ消費財であれ、その力をつくり上げるためには時間やエネルギーがかかります。

だからこそ、その過程においては、ユーザーの熱量がどの程度のものなのかを適切に見極めることが重要だということです。

そして本題は、もっとも重要度の高い「人の力」。人の力を生み出せる組織には柔軟性があり、もっともレジリエンスが高いもの。

外部環境が変化したとしても、本当に人の力のある会社は、問題が顕在化する前に対処をはじめているわけです。そのような体制が確立されていれば、気づくのが遅れたとしても早く修正することが可能です。(127ページより)

挑戦をしなければ、待っているのは衰退だと心得る

かつて科学を学んでいたという著者は、熱力学第二法則の「エントロピー増大の法則」と、福岡伸一氏の著書『動的平衡』のコンセプトが好きなのだそうです。

専門的な話題なので、そのことに関しては記述を引用することにしましょう。

エントロピーの正確な解釈は難解なものだが、大雑把に言うと物事の乱雑さとなる。物事は外からエネルギーが加わらなければ、エントロピーが増大する方向に変化する。

つまり整然とした状態から乱雑な状態になっていく方向性を示す法則である。外部からのエネルギーがなければ、完全に混ざり合い、均一の圧力、温度という状態に近づく。それを乱雑な状態と定義している。(130ページより)

これを経営的な観点から捉えた場合、「組織や業務はなにも努力をしなければ乱雑さが増す方向に変化する」ということと似ているというのです。

その結果、組織や業務は、企業の外部環境の変化に合わせるだけでどんどん乱雑なものになってしまうかもしれません。

努力を怠っていると、組織の力は必ず劣化するということです。

また、『動的平衡』の概念は、流入と流出が釣り合ったときに平衡状態が保たれると理解されている。

動的平衡の例として、人間であれば部位によって期間は異なっているが、概ね3カ月程度で細胞が入れ替わっているという。外見はほとんど何も変わっていないように見えるにも関わらず。(131ページより)

それは会社経営でも同様。同じような売上規模、利益額で維持されている会社がなにもしていないかというと、決してそうではないわけです。

外部環境も社内の人も変わっていくため、事業を維持するだけでも努力が必要。絶対的な安定など存在しないからこそ、すべて平衡は動的平衡によっているということ。

だからといって、安直に組織を壊してつくりなおすという「スクラップアンドビルド」を繰り返してはいけないといいます。

なぜならそれは、不要な混乱を招くだけの結果になるから。

変化を加える前に、細胞と同じように、組織の確固たるDNAを確立しておかなければならないわけです。

生物のDNAの進化(組み替え)は簡単に起こりませんが、組織は生物とくらべればDNAを最適化しやすいというのです。

不確実性の時代に、環境変化にも耐えられるDNAを確立することができれば、長期的にその組織が繁栄することになります。

変化にも耐えられる組織とは、「組織内での心地よく安全な居場所を確保しながらも、外部環境に対しては果敢に変化に対応する挑戦を尊ぶ」という、相反するふたつを両立させることだといいます。

そして変化に挑戦することを応援する文化をつくるためには、経営トップと各メンバーが失敗をポジティブに評価し合うようにすることが重要。

フライヤーでは(少なくとも私の評価は)、挑戦の総量が大きい人をより評価するようにしている。

能力でも成果でもない。楽に成果を出せる状況もあれば、成果を出すことが大変な状況もある。そこで基準をぶらさず、成果を出していなくても適切に評価するためには、挑戦の総量を見ると良い。

独断で行ったことでなければ、発生した損失は会社トップの責任と割り切る。大企業の新規事業の担当者が適切に評価されないケースも多いが、その挑戦の度合いが他の組織を上回っているかどうかに注目すれば、一定の基準が見いだせるように思う。(133ページより)

これはフライヤーのみならず、どのような企業にも求められるべき姿勢ではないでしょうか?(130ページより)

著者の考え方は、力強い文体の説得力と相まって読者を共感させてくれるはず。

経営者や組織のリーダーのみならず、すべてのビジネスパーソンが読んでおくべき好著です。

Photo: 印南敦史

Source: 自由国民社

メディアジーン lifehacker
2019年3月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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