38歳女性が出会い系サイトで会った70人に本を薦めまくって感じたこと

対談・鼎談

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出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

著者
花田 菜々子 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784309026725
発売日
2018/04/18
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【特別対談】花田菜々子×岸政彦「〈その場限り〉の切実さについて」〜『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』刊行記念

[文] 碇雪恵

花田 いやいや、服のことは詳しくありません(笑)。服のことを詳しいのであれば「あの人はああいう組み合わせをしたらきっと似合うな」とか「その人の良さが際立つんじゃないか」なんて考えるのがすごく楽しいというか。わたしの場合はそれが本だったんですね。でも向こうからしてみたらありがた迷惑な面もあると思うし、勝手に押し付けているっていう側面もありますよね。あと、ナンパ師みたいな罪悪感があったりもしました。「わたしは人をやり捨てているな」と。

岸 すすめ捨て(笑)。

花田 最初から「こいつとは30分会うだけの関係だ」って思ってやっているので、関係性を続けていく気がないんですよ。

岸 だからちょっと「キモい」人来ても平気だったのかも。

花田 そうかもしれないです。サンプルを見るのが楽しい、っていう気持ちですね。

岸 でも、すごく寛容な人って、実は他人に興味がなかったりしますよね。

花田 冷たいんですよね。我関せず、というか。

岸 人との付き合いっていろんなものがくっついているから、やっぱりリスクはありますよね。だからその辺のリスクを減らそうとしていろんなものを切ってしまうと、たぶん30分お茶して二度と会わない、となりますよね。でもそれはそれで、花田さんにとって貴重な経験になったんですね。現在そのサイトは卒業したということですが、いまは人とどうやって出会います?

花田 ポーカーが趣味なので、それきっかけで人と知り合うと、ふだんの自分とは遠い人が多くてよいです。

岸 それも寄せ鍋理論ですよね。ポーカーが寄せ鍋。

花田 そうですね。終わった後に常連さんたちと飲みに行くことがあるんですが、実はその人たちとすごく気が合うかっていうとまた別で。もしポーカーなしで最初から飲み会だったら全く行きたくないんですよ(笑)。ポーカーなら「あのときのプレイはこうすべきだったんじゃないか」とかそういう話題が中心になりつつ、「仕事って何しているんですか?」とか「今日就活行ってきたんだけどうまくいかなくて」っていう身の上話がぽろぽろと出てくる、その距離感が楽しい。本屋界隈の友人とは話が合いますが、そればかりだと疲れます。

岸 なにか「フック」みたいな仕掛けが必要っていうことですよね……。考えたらスポーツでも音楽でも、あらゆる「趣味」というものの社会的機能は、それなのかもしれない。しかしポーカー以外のところで気が合うわけではないっていうのは面白いですね。あと逆に、いつも思うんですけど、職場の飲み会って共通の話題がたくさんあるから話も合うんですが、別にそこで出会いが欲しいわけじゃないですよね。なんていうか、そのへんの「真ん中」のところで、人と出会える仕掛けが欲しいですね。

社会学者の岸政彦さんと書店員の花田菜々子さん

 それと関係するかわからないけど、うちは同業者夫婦なんですよ。ぼくの連れあいも大学の先生なんですけど、ぼくが教授会でものすごい疲れて家に帰って、連れ合いが「教授会しんどかったわ」って言ってるのを聞くとさらに疲れたりして(笑)。普段はとても仲が良いのですが、あまりにも共通点が多いと、それはそれでしんどい。

花田 わたしは分散型でいいのかなと思っています。特に夫婦だと誰かひとりを選ばないといけないけど、その人に全部求めようとすると苦しくなってしまいますよね。「ここを満たしてくれない」とか勝手に思ってしまったり。人と人との距離は近ければ近いほど美しいと思いがちなんだけど、友達でも毎日一緒にいたら嫌になってくるっていうか。それはその人の本当の部分を知ったから嫌になったというわけではなくて、1~2週間に一回だったら心地いい友達なんですよね。あなたを好きなことの証明として毎日会う、っていうことはしなくてもいいんじゃないかと思っていますね。

岸 なんかそれはそれで寂しくないですか?(笑)

花田 やっぱり冷めてる方なのかも…。なんかのめりこめないんでしょうね。

岸 なんかね、そういう「断片的な」つながりも良いと思いながら、やっぱりでも、人と人の関係って「調整可能」だとも思うんですよね。よく学生から「どんな相手を選んだらいいですか」って聞かれるけど、趣味の違いは全然乗り越えられますね。ぼくはジャズが好きなんだけど、連れあいはロック好きなんで、間とってサルサで落ち着いてるんですよ(笑)。こういうところはいくらでも調整可能です。だから、なんかお互いがんばってすり合わせてやっていく、ということも可能だと思うんです。
 まあ、でもただ、政治的な価値観がちがうとつらいですね。たとえばホームレスのニュースがTVで流れていて、「こいつら遊んでるだけ、自業自得や」って反応か、「なんとかせなあかんな」って反応なのか、そこが違うと、日常生活はとても一緒に送れない。だからわりと理性的なところの価値観が大事なのかもしれないですね。

対談構成=碇雪恵

河出書房新社
2018年7月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河出書房新社

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