『ロマンで古代史は読み解けない』
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「モノ」と「ヒト」から古代史を再現、科学で読み解く面白さ
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
古代史=神話というイメージが拭えない。確かにロマンあふれる物語だが真実ではないだろう。だが日本には『古事記』や『日本書紀』という過去の偉人たちが積み上げてきた第一級の資料が残されている。
ならば徹底的に科学で解明しようというのが本書の狙いである。著者は大学共同利用機関法人自然科学研究機構の科学者だ。坂本は「生理学研究所」でヒトの脳機能を、渡辺は「基礎生物学研究所」で動物の心理を研究している。歴史マニア同士、愛知県岡崎市にある研究所で偶然出会ったことからこの本は始まった。
最も大切にしたこと、それは彼らが育った科学の世界の価値観だ。科学に求められるのは「再現性」。だが歴史的事実にそれを求めるのは不可能だ。ならば頼りにしたのは何か。
まずは地名や建造物などの「モノ」。位置情報や正確な形はインターネットで簡単に手に入る。次は「ヒト」。古代の人々の心も現代人とそうは変わらない。ならば心理を読み解いてみよう。最後は「科学」そのものの歴史だ。古代では神仏に祈るだけの天変地異や病気であっても、必ず未知なるチカラを知りたいという人はいた。陰陽道という日本独自の学問がその拠り所となる。
この手法を用い、いくつかの仮説が組み立てられる。三種の神器の一つ「八咫鏡」(やたのかがみ)は伊勢神宮に鎮座するまで、なぜ延々と旅を続けなければならなかったのか。その伊勢神宮の内宮と外宮の建築様式と位置関係を読み解くうちに、やがて国津神と天津神と人の歴史の境目を見分けようという試みに及ぶ。各地に残る古い神社の場所を俯瞰するうちに見えてくる不思議な関係には、調べていた本人たちでさえ驚愕する。
彼らの所属する自然科学研究機構自体が、陰陽寮の正統の後継組織であることが分かると、やはり不思議な力が働いているような気がする。ジグソーパズルがパチパチと嵌っていくような爽快さを味わってほしい。