人生は勝ち負け両面あっていい 山田ルイ53世×中瀬ゆかり『一発屋芸人列伝』対談

対談・鼎談

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一発屋芸人列伝

『一発屋芸人列伝』

著者
山田ルイ53世 [著]
出版社
新潮社
ISBN
9784103519218
発売日
2018/05/31
価格
1,430円(税込)

【山田ルイ53世『一発屋芸人列伝』刊行記念対談】山田ルイ53世×中瀬ゆかり 負けてからが本当の人生

[文] 新潮社

中瀬ゆかり
中瀬ゆかり

娘に説明するのに向かない職業

山田 しかしこの本を読んでそんなことまで考えてくださったんですね。

中瀬 節々で芸人さんのご家族とのエピソードが出てくるので、想像をたくましくしてしまいました。リアルな人生が書かれているなあって。

山田 今のご時世、嫁と子どものために頑張るっていうのもちょっと古いのかもしれないですけど、僕はそういうタイプですね。もし仕事がなくなってしまったら、うちの娘がすごく惨めだなと思う。そうすると頑張れる。でも僕、娘に自分が髭男爵だってことは隠してるんです。

中瀬 バレないんですか?

山田 ちょっとこの家シルクハット多いな~くらいは思ってるかもしれないですけど、まだ5歳なんでギリギリ大丈夫です。だって、怖いじゃないですか。たとえば月1回しかテレビに出ていなくても子どもは分からないですから、「うちのお父さんテレビに出てるんだ」って言い始めたりなんかしたら……想像してくださいよ。急に娘が調子に乗って「ルネッサーンス」とか言い出したら、この2018年に。時空が歪みますよ。お友達の親御さんに伝わった時、どんな酒のつまみにされるんだろうって恐怖しかないですよ。5歳児に一発屋っていう概念を説明するのはまだ難しい。

中瀬 でも、いつかは言おうと思ってらっしゃるんですか?

山田 娘が成人するまでは言いたくないんですよね。でも現実的じゃないから、なんかうまい嘘ないかなと……そういう意味でも“書く仕事”を頑張っていきたいと思ってます。

中瀬 どんなモチベーションでもいいので頑張っていただきたいです(笑)。一発屋の一つのステータスとして、小島よしおさんの「そんなの関係ねえ!」とか、子どもが真似をするっていうのがありますよね。やっぱり子どもがやり出したら、一発きたっていう証明になるんですか?

山田 ギャグの流通経路としては、子どもって末端だと思うんです。だから真似されたら、染み渡ったって感じはありますよね。僕、山梨でラジオをやらせていただいていて、地元の小学生がたまに見学にくるんですよ。彼らを見ると一目瞭然ですね。いま染み渡ってるのはサンシャイン池崎とブルゾンちえみです。他にバロメーターとして、僕は一発屋の「皮」って呼んでるんですけど、自分のコスプレがドン・キホーテとかで売られ始めたら一発きた、という感じはあります。あと髭男爵の場合は、宴席でお客さんがめちゃくちゃグラス割るから、そのギャグやめてほしいっていうクレームがきたり、居酒屋に「ルネッサンス禁止」って張り紙がしてあったりしました。

中瀬 それはすごい! そういう時、売れたなって思うんでしょうね。

山田 でもその張り紙がいつの間にか剥がされているのも見てしまうわけですよ。

中瀬 切ない(笑)。

山田 以前行きつけのおでん屋で飲んでたら、隣のカップルの男がビール飲むときに「ルネッサーンス!」ってやったんです。そしたら彼女に「ちょっとやめて、恥ずかしいから!」ってマジギレされてましてね。いたたまれなくて、襟を立てて顔を隠したかったんですけど、Tシャツだったんでそっと心の襟を立てました。

新潮社 波
2018年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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