『保守の真髄 老酔狂で語る文明の紊乱』
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大思想家の遺言を光らせる見事な「述者」の存在に注目
[レビュアー] 立川談四楼(落語家)
著者は我が師談志の晩年の何年かを支えてくだすった。意気投合し、旅にも出た。著者の講演と談志の落語というセットである。
移動の車内、控え室、打ち上げの席と二人はよく喋った。その場に居合わせたことがあるが、話の内容をしばしのタイムラグの後に理解し、論客とはこういうものかと大いに感じ入った。
昨秋、談志は七回忌を迎え、著者も老境に入った。オビに「大思想家・ニシベ 最期の書!」とあり、遺言とも言える一冊である。現在、著者は病を得て右手が使えない。したがって本書は口述である。筆記者は娘さんで、奥さん亡き後、この人が秘書のごとく付き添っている。
「あとがき」で娘さんについてこう述べている。「僕の喋ったことがきみの気に入らないと顔をしかめ気に入ったらニコリとしてくれたのが僕にはとても面白かった。ともかく僕はそう遠くない時機にリタイアするつもりなので、そのあとは、できるだけ僕のことは忘れて、悠々と人生を楽しんでほしい」と。
まさに二人三脚、したがって著者は自分を私でも僕でも筆者でもなく、口述する者、つまり「述者」と称し章を進める。不思議だ。口述を感じさせない。いつもの書き言葉のニシベ節なのだ。
さて「保守」とは何ぞやであるが、ここにかいつまんで言うのは難事だ。第一章は「文明に霜が下り雪が降るとき」であり、その第一節は「文明と文化とのかかわり」から始まる。第二章は「民主主義は白魔術」であり、その第一節は「『主権』は不要のみならず有害」と刺激的だ。そしてその章において「自由は不自由の際において生ず」との福沢諭吉の言葉が持ち出され、正月ボケの頭にカツが入る。
己の読解力を恨みつつ最終章、ここでアッと声が出た。死に関することで、述者は現代においては驚愕の死に方を画策しているのだ。