“流浪の格闘家”が明かす実体験の総合格闘技“外史”
[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)
真剣勝負化を目指した先鋭的組織だと評価されたり、真剣勝負の振りをした詐欺組織だと叩かれたりで、評価が真っ二つに分かれがちな伝説のプロレス団体・UWF。最近、柳澤健『1984年のUWF』のヒットをきっかけにUWF本バブルが訪れてるんだが、面白かったのはその一員でも何でもない、UWFによって人生を狂わされた男の自伝だった。
UWFを真剣勝負の格闘技団体だと信じ、入門したくて道場に行ったら、若手選手に「ウチも、プロレスなんですよ。格闘技って言っても、やってることはプロレスなんです」とそっと告げられ、試合で左肩を脱臼したはずの初代タイガーマスク・佐山聡には、三角巾を外して動かせないはずの腕をグルグル回して「UWFはプロレスなんだ。だから本当は、肩は怪我してないんだよ」と告げられ、何かが崩れていく。
彼はその後、シュートボクシングの団体で真剣勝負の格闘技をやることになり、かつて憧れた前田日明がドン・中矢・ニールセンと異種格闘技戦をやるときは一緒に練習したりもするが、「僕たちシュートボクシングの選手は、試合を見て少しがっかりした。前田さんが“本当の試合”をやるのだと思って協力したが、プロレスの試合に見えたからだ」と、また何かが崩れていく。
そして、UWFのリングに立った師匠シーザー武志の試合でも、対戦相手が「自分から寝たように見えた。僕たちシュートボクシングの若手はショックを受けた。どう考えても八百長に思えた」「まだ若かった僕らは本気で怒っていた。『もうやめよう』」と、さらに何かが崩れていくんだが、こういうデリケートな部分にちゃんと触れながら、本としては後味のいい青春小説みたいになっていて驚いた。「現在の基準で過去を批判するのは簡単だ」「結果として過渡期に怪しい試合やリアルファイトではない試合があったから、今の総合格闘技は存在する」って、ホントそういうことなのである。