『屍人荘の殺人』
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謎解きとパニックホラーを見事に両立した鮎川賞受賞作
[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)
受賞作なしが相次ぎ、今年は不作といわれるミステリー新人賞。だがベストテンの季節になって全選考委員絶賛の話題作が登場した。第二七回鮎川哲也賞受賞の本書である。
ただし、出だしはありがちな学園ものふうだ。主人公葉村譲(はむらゆずる)は関西の私大、神紅(しんこう)大学経済学部の一回生。ミステリー好きの彼はミステリ愛好会会長を名乗る理学部三回生の明智恭介(あけちきょうすけ)に声をかけられ意気投合、ふたりだけの活動が始まる。
夏、映画研究部がペンションで心霊映像の撮影をする話を聞きつけた明智は興味本位に合宿に参加しようとして断られるが、そこへ現れたのが文学部二回生の剣崎比留子(けんざきひるこ)。数々の事件を解決へ導いた探偵美少女であるが、合宿に参加する彼女の友人に「今年の生贄(いけにえ)は誰だ」という脅迫状が届いた。去年の参加者のひとりが合宿後自殺していたのだ。その話に事件の匂いを嗅ぎつけたのか、比留子は何故か葉村たちをも合宿に誘ってきたのだった。
そのペンションがS県の避暑地、裟可安(さべあ)湖畔にある紫湛(しじん)荘。合宿本来の目的は紫湛荘のオーナーの息子で映研OBの七宮兼光らを中心とした男女交際イベントであったが、ともあれ合宿は昼の撮影、夜のバーベキュー、恒例の肝試しへと滞りなく移っていった……。
プロローグで、裟可安湖で集団感染テロが起きたことが明かされてはいるものの、そこから繰り広げられる阿鼻叫喚の惨劇には驚かれる向きも多いはず。しかもそうして奇抜なクローズドサークルを設定したうえで、著者は謎深き連続殺人劇を開幕させる。本格ミステリーではお馴染みの密室談義に加え、パニックの立役者たる○○○談義も披露するなどロジカルな謎解き推理とパニックホラーの妙を見事に両立させてみせた。
葉村と明智、そして剣崎比留子の三角関係の行方も興味深く、この先独自のシリーズ展開も望めよう。まさに心憎いばかりの初陣だ。