『幻想運河』
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エモーショナルな「裏ベスト」ミステリ
[レビュアー] 図書新聞
アムステルダムでソフトドラッグを楽しむ、シナリオライター志望者、芸術家兄妹、音楽家、ビジネスマン。そのメンバーの一人がバラバラ死体で発見される。幻想と現実が入り乱れながら、謎解きが展開する異色ミステリだ。一九七六年の麻薬法改正によってオランダはソフトドラッグの使用を容認。見映えは普通の喫茶店と変わらないコーヒーショップでたしなむことができるという。そんな現地事情がふんだんに盛り込まれているのは、アムステルダムに滞在したことがある著者の経験がまるで運河のように隅々まで行き届いているから。クライマックスは、ロジカルというよりは、エモーショナル。本書自体がソフトドラッグのようであり、まさに有栖川有栖の「裏ベスト」と評されるにふさわしい傑作である。(4・15刊、三六六頁・本体六八五円・実業之日本社文庫)