『日本海 その深層で起こっていること』
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日本海はなぜ豊かな海なのか? 深層で起こり始めた危険な兆候
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
海洋研究とは、見えないものを見ることだ。深海は気軽に見に行けない場所だし、海水全体の動きなども限られたデータからの推定によるしかない。入手できる手がかりを総動員して推理するおもしろさがそこにある。日本海という身近な海にも、まだまだ魅力的な謎がひそんでいる。
日本海は、いくつかの海峡で外海とつながってはいるが、海峡部分はごく浅い。最深部分で約3800メートルもある日本海の水のほとんどは、外洋との出入りができないのだ。
この構造は、たとえば黒海(トルコやロシアに囲まれた内海)と似ているが、黒海の深いところは酸素濃度がゼロで「死の海」になっているのに比べ、日本海は底のほうにも酸素がある。それは、冷たい季節風が表面の海水を極限まで冷やして「重い水」をつくり、それが海底まで何年もかけてゆっくり沈んでいくことで、表面と底面の海水が大規模に循環するしくみがあるからだ。
こんな「循環装置」の存在は、知るだけでわくわくしますね。スケールの大きな話だ。ところが近年この装置に、わずかな変化が見えはじめた。今はわずかでも、将来危険な変化になりかねない徴候だという。この先はぜひ本書で確かめてください。
日本海がなぜ豊かな海なのか、その「巡り合わせの妙」を知る。はるかな昔や遠い未来が、少し身近に感じられてくる。