いばらない生き方―テレビタレントの仕事術―
2024/06/12

釣りのロケでも「私、釣りって嫌~い」と平気で話す飯島直子…「男1・女2」のジンクスを破って番組がヒットした理由

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ジョージアの缶コーヒーCM発表会見に臨む飯島直子さん(1994年)

 90年代に出演した缶コーヒーCMをきっかけに大ブレイクし、「元祖・癒し系」と言われた飯島直子さん。

 中山秀征さん、松本明子さんと共演したバラエティ番組『DAISUKI!』は9年も続く人気の深夜番組だったが、斬新さゆえに当初は「テレビで遊んでいるだけ」と業界人から批判されただけでなく、男1人&女2人の組み合わせは「当たらない」というジンクスまであったそうだ。

 それらをすべて跳ね除け、番組がヒットした理由が中山さんの著書『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』(新潮社)で明かされている。

 飯島さんの“正直すぎる”姿勢や、松本さんのマイペースさに翻弄されっぱなしだった中山さんが考える成功の秘訣とは。芸能生活を振り返りながら中山さんの人生観が語られる同書から、紐解いてみよう。

当たらないと言われた「男1・女2」の組み合わせ

 2022年、BS日テレで22年ぶりに『DAISUKI!』の復活特番が放送され、その後も、不定期ながら特番として何度か放送されています。松本さん、ナオちゃんとのロケは、どれだけ久しぶりでも、故郷に帰ってきたような安心感があります。

 2人との出会いは「運命的」としか言えないのですが、実は90年代初めのテレビ業界では、男1人&女2人の組み合わせは「当たらない」と言われていました。

 理由はハッキリと分からないのですが、いわゆるジェンダーバイアス(性別役割による固定観念)かと。意図していなくても、男性が女性を従えているような構図に見えてしまったのかもしれません。

 ところが『DAISUKI!』での3人の「構図」は全く違いました。

 ナオちゃんは、釣りのロケで「私、釣りって嫌~い」「つまんない」とか平気で言っちゃう人。テレビの常識は「つまらなくても、一生懸命やるのがプロ」だけど、日常ならこんな状況はある。日常感を大切にする『DAISUKI!』なら、こんな正直すぎる発言もアリなんです。

 そして、一方の松本さんは、爆弾発言をフォローするでもなく、マイペースに釣りを始めちゃう。「ナオちゃん釣り嫌いって……。え? 松本さ~ん?」と、2人に翻弄されっぱなしの中山。自分を“曲げない”ナオちゃんと、自分が面白いと思った方に“曲がって行く”松本さんとの間で、3人は常に「1・2」「2・1」、時には「1・1・1」の関係になりました。仲はいいけれど、全員が同じ方向を向いている状態はめったにないんです。

 当時20代だった男女3人が腕を組んで歩いていても、変にベタベタした感じに見えなかったのは、一緒にいるのに同じ方を向かない「3人の構図」にもあったと思います。もっとも、腕を組んでいたのは、松本さんの視力が悪く、危険防止のために人の腕をつかむ癖があった、という理由もありますが……。

「ネガティブな浪費」ではなく「ポジティブな無駄」

 そんな、この3人ならではの構図をじっくり楽しんでもらうため、『DAISUKI!』の収録には、「たくさん撮って、なるべく編集しない」という不思議なルールがありました。普通は、長い時間カメラを回していろんなシーンを撮影したら、その中から、面白い瞬間、瞬間を切り取ってつなげ、1本のVTRに仕上げていきます。

 それが『DAISUKI!』の場合、妥協せずに何時間もカメラを回したうえで、実際のオンエアでは、日常感のある「面白い流れ」の部分を、あまり編集せずたっぷりと使います。

 だから、オープニングからの20分をほぼ編集しないで流すこともありましたし、キャンプロケの回では、「スープの味付け濃くない?」「逆に薄くない?」のやり取りで放送時間のほとんどを占めたことも……。「日常感のある面白い流れを丸ごと見せたい!」。出演者もスタッフもその思いは一致していました。

 コスパやタイパが重視される今では、『DAISUKI!』のロケは無駄が多いと言われたかもしれません。ただ、「生産性」という点で見れば、決して低いわけではなかった。編集はなるべくしない、台本にはロケ地までの地図などの情報のみ、過剰な事前準備をしない……など、あらゆる無駄を省いて、お金と時間と労力を「当日の収録」に一気に注いでいた感覚です。

“日常の楽しさを見せる”という番組の目的がしっかりと共有できていたからこそ、ロケ当日は、全員、粘りに粘るという、一点に集中できたわけです。

 とはいえ、室内スキー場のロケで、11時間もカメラを回したときは、スタッフから「もう勘弁してくれ」と悲鳴が上がっていましたが……(笑)。

 今振り返ってみると、無駄は無駄でも、目的無く労力を使う「浪費」ではなく、明確な目的に向けて、労力を使ってはいたが、その使い方が過剰だった。つまり「ポジティブな無駄でもあったのかな」と考えています。『DAISUKI!』ならではの“日常の楽しさ”の裏には、間違いなく、この「ポジティブな無駄」があったことは確かだと思います。

 この「ポジティブな無駄」は、僕のテレビタレント人生のもう一つの原点ともいえる番組でも徹底されていました。

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【『DAISUKI!』で学んだ、明るく生きるヒント】
・楽しい人間関係は「一緒にいるけど同じ方向を向かない」
・一点集中の「ポジティブな無駄」は目的共有があってこそ

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『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』では、2008 年に亡くなった飯島愛さんの
天性の才能や先見性、そして中山さんの前だからこそ見せられたであろう、弱音を吐く姿も語られている。

【もっと読む:折りたたみ携帯の時代に「YouTube やった方がいい」と言った天才・飯島愛がロケバスでヒデちゃんにだけ見せた姿とは

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中山秀征(ナカヤマ・ヒデユキ)
1967年生まれ。群馬県出身。テレビタレント。14歳でデビューして以来40年以上にわたり、バラエティ番組や情報番組の司会、俳優、歌手として活躍している。

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