いばらない生き方―テレビタレントの仕事術―
2024/06/12

「あんなのテレビじゃない」と批判された中山秀征を救った「ナオちゃん」の思わぬ行動とは? 熱愛報道の裏話も明かす

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク


中山秀征さん

“ヒデちゃん”はもう56歳だそうだが、年齢を感じさせない活躍を続けている。

 つい最近でも、50歳を超えてから精力的に取り組んだ書道の個展を地元群馬で開催し、その来場者が3万人以上になったことが話題になったばかりだ。

 そんな中山秀征さんが、芸能生活を振り返りながら人生観を語る著書『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』(新潮社)を刊行した。

 テレビ全盛期にMCとして活躍し、『ウチくる!?』『THE夜もヒッパレ』『TVおじゃマンボウ』などの人気番組をつくり上げた中山さんだが、その原点となったのは松本明子さん、飯島直子さんと出演した『DAISUKI!』だという。

 当初、「あんなのテレビじゃない」「遊んでいるだけ」と批判されながら、どう逆風を乗り越えたのか。愛され続ける“ヒデちゃん”の原点を、本書から探ってみた。

(※以下、同書より引用・再構成しました)

25歳で初めてMCを任された深夜番組の『DAISUKI!』

 40年にわたり、数え切れないほどたくさんのテレビ番組に出させてもらいましたが、その中でも「テレビタレント中山秀征の原点は?」と聞かれれば、間違いなく、日本テレビ系『DAISUKI!』(1991~2000年)を挙げます。25歳で初めて本格的にMC(進行役)を任せてもらったこの番組で、僕は自分が目指すべきスタイルを自覚することができました。

 番組を知らない若い読者の皆さんに説明すると、『DAISUKI!』は、僕と、松本(明子)さん、ナオちゃん(飯島直子さん)の、当時20代半ばだった3人の男女が、テレビを通じて“日常の遊び”を見せていた番組です。

 3人で商店街をブラブラ歩いたり、不動産屋さんと物件を探したり、パチンコや麻雀、時には、居酒屋で日本酒を飲み本気で酔っ払うなど、とにかくテレビの中で本気で遊んでいました。

 今なら「それって、普通のテレビ番組じゃない?」と感じる方も少なくないかもしれません。

 でも、放送が始まった1991年は、まだまだテレビを観る人も、テレビの中の人たちも、「バラエティはスタジオを中心に作り込むモノ」という常識が強く残っていた時代でした。

 それにもかかわらず、毎週オールロケで“遊び”を見せるバラエティは新鮮だったのか、「土曜の夜に肩の力を抜いて観られる」と支持され、深夜番組としては異例ともいえる高視聴率(最高14・7%)を獲得したこともありました。

 ただ、「バラエティはかくあるべし」という方々からは「あんなのテレビじゃない」と辛辣なご意見も……。特にMCの僕は「テレビで遊んでいるだけ」「芸がない」などとバッシングも受け、コラムニストのナンシー関さんからは「生ぬるいバラエティ番組」の「象徴的存在」なんて書かれたりもしました。

 そんな、「中山秀征はテレビの中で何やら楽しそうに遊んでいるタレント」というのは、好き嫌いにかかわらず、僕を知ってくれている方々の多くが僕に対して抱いているイメージではないでしょうか。

 そんなイメージ、言い換えれば、僕のスタイルが生まれた番組が『DAISUKI!』。それも、意図しない「ハプニング」から生まれたものでした。

ナオちゃんの思わぬ行動に仰天!

 初回ロケを迎えるにあたり、僕は「番組のキーパーソンは飯島さんだ」と考えていました。

 というのも、実は僕は、番組スタートから約1年半後に、2代目MCとして途中参加した追加メンバーでした。レギュラーの2人と早く打ち解けた雰囲気を出さなければと、始まる前から少し焦っていました。

 もっとも、松本さんは同じ事務所の先輩で10年来の信頼関係があるし、普段通りで大丈夫だろう、という安心感がありました。

 問題は、ほぼ初対面の飯島直子さん。彼女と番組内で上手く絡むためには……。それまで見てきた先輩MCの方々のテクニックを振り返りながら、あれこれ策を練っていたのです。

 しかし、長く考えていた“あれこれ”は、初回のロケで、あっさり覆されました。それも、想像をはるかに超える良い方向に。

 初回のロケ地は若者の街・渋谷。当時流行していたバスケの「3 on 3」にチャレンジしました。

 試合が始まり、僕がシュートを決めた直後、なんと、ナオちゃんから突然ハグされたのです。当時は同世代の女優さんからハグされるなんてなかった時代ですから、ただただ驚いてしまって……(笑)。

「これはテレビ。何かコメントしなきゃ」と焦った次の瞬間、経験したことのない雰囲気を感じました。目の前のナオちゃんは満面の笑み、松本さんも周りにいるスタッフも、とにかく楽しそうに笑っている。ロケ現場全体が、何かこう、キラキラした楽しい空気に包まれていたのです。

「もしかして、この“楽しい空気”を伝えるのが、僕の役割なのでは……?」

 まだぼんやりしていた、MCという仕事の輪郭が少しだけクッキリした気がしました。

 それは、カメラに向かって「僕のこの発言、この行動を撮ってください」と主張して“見せる”のではなく、「楽しんでいる僕たちを、どうぞどこからでも撮ってください!」と“見てもらう”イメージ。ゴールが決まれば、3人で喜びを分かち合い、決められれば3人で地団太を踏んで悔しがる。感情を爆発させ全力で楽しむことを意識したロケは想像以上に大盛り上がりしたのです。

 そしてロケが終わった時は、僕だけではなく、松本さんもナオちゃんも、スタッフのみんなの表情にも、「この番組は行ける!」という確信が生まれているように見えました。

「今、テレビの中で起きていることは、こんなに楽しい!」

 明るく楽しい空気を伝えることが、僕に向いているMCスタイルなのかもしれない。初回ロケをキッカケに、テレビタレントとして大きな一歩を踏み出せました。

 そして、楽しい空気を作り、その空気を伝えるための具体的な手段も、このあと僕は、『DAISUKI!』を通じて、多く学んでいくのです。

ナオちゃんと“夏っぽい”大物歌手の熱愛報道が出たときは…

 誰もが経験する“日常の遊び”をテレビにした、当時としては斬新な番組。

 これが、多くの人が語ってきた『DAISUKI!』評でしょう。ただ、僕なりにもう少し深掘りさせてもらうと、この番組の凄さは、テレビなのに“日常”を感じさせる、その技術や演出にあったと思います。

 そもそも、日常生活にテレビカメラが入ったら、それは非日常です。ドキュメンタリー番組だって、カメラが回ったら、取材対象者は少し演技もするし……。撮られることが仕事のタレントは、なおさら“演じてしまう”もの。

 ところが、『DAISUKI!』のスタッフは“演じさせない”演出が抜群に上手かった。

 たとえば、番組の代名詞ともいえる“街歩きロケ”では、出演者を後ろから映す「バックショット」を多用していました。背中って、どうしても隙が出るし、カメラを意識していないから自然と素に近いトークになるんです。

 そして、もう一つ、大きな効果があって……。実は、このバックショット多用の演出は「視聴者に4人目の出演者になって欲しい」という考えのもと、演出陣が知恵を振り絞って生み出した“発明”とも言えるものでした。

 僕、松本さん、ナオちゃんと同じ目線で街の景色を見たり、会話を背中越しに聞いたりすることで、テレビを観ている人も、僕らと一緒に街を歩いているような気持ちになれる。平成初期のテレビで、VR映像のような“参加型”を意識していたそうです。

 背中越しに街歩きをするシーンは、その後、街ブラ系番組の「定番の画」になっていますが、もしかしたら、その意図や効果は、それほど広く知られていないし、作り手の方でも深く理解している人は多くないかもしれません。意識しないほど定着した手法になった、とも言えますね。

 他にも、「説明ナレーションを入れない」「テロップでコメントのフォローをしない」など、日常の雰囲気を身近に感じてもらうため、あえて“引き算をする”細かな工夫も施されていました。

 僕自身はというと、番組内のトークでは常に日常感を意識していました。

 例えば、ナオちゃんに大物歌手との熱愛報道があった時のこと。観ている人は、絶対にその話を聞きたい(もちろん僕も松本さんも!)。そんな時、『DAISUKI!』のトークはどんな感じになるかと言えば……。

 まず、僕が「あぁ、夏休みだね~ナオちゃん。こんな時のBGMは?」と軽く振りを入れます。するとナオちゃんは「ん~。サザンかなぁ」なんてトボけてくれる。肝心なことを言葉にしていなくても、ナオちゃんの表情や声のトーンで「噂の彼とは、うまくいってるな」という雰囲気は伝わります。伝わったら、それ以上は踏み込まない。膨らまさない。わかる人にはわかるし、わからない人にも楽しそうな雰囲気は香ってくるもので……。

 ポイントは「香る」で止めておくこと。実際の日常会話だって、実は細かい言葉よりも雰囲気で、相手の伝えたいことを感じとることが多かったりしませんか? こんな風に、『DAISUKI!』では、トークでも“日常の香り”を大切にしていました。

 今なら、番組を観ながらSNSで「ナオちゃん、うまくいっているんだね」とか、「中山、今の結構攻めたな~」とか実況しながら、“香り”の解釈を共有できます。何気ない会話の考察もできて、当時以上に番組を楽しめそうです。ただ、当時はX(ツイッター)もインスタもなかった時代。観ている人ひとりひとりが、それぞれの解釈で“香り”を楽しむしかありませんでした。

 でもだからこそ、「4人目の出演者」としてじっくり番組に入り込み、僕ら3人が感じていた「楽しい空気」を深く共有できたのかもしれません。

 ***

【『DAISUKI!』で学んだ、明るく生きるヒント】
・「楽しませる」ではなく「みんな一緒に楽しむ」
・引き算の演出で「日常」を香らせ「空気」を共有する

 ***

『いばらない生き方 テレビタレントの仕事術』では、伝説の深夜番組『DAISUKI!』が放送当初バッシングを受けたことも明かされている。中山秀征、飯島直子、松本明子のトリオが逆風を跳ね除け、番組を成功させた秘訣に迫る。

【もっと読む:釣りのロケでも「私、釣りって嫌~い」と平気で話す飯島直子…「男 1・女 2」のジンクスを破って番組がヒットした理由

 ***

中山秀征(ナカヤマ・ヒデユキ)
1967年生まれ。群馬県出身。テレビタレント。14歳でデビューして以来40年以上にわたり、バラエティ番組や情報番組の司会、俳優、歌手として活躍している。

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク