南沢奈央の読書日記
2024/10/04

世界一怖いアンケート

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撮影:南沢奈央

 岐阜県可児市に滞在して、約1カ月が経つ。ついに来週から公演が始まる舞台「いびしない愛」を稽古しているこの1カ月の間に、なんと発行部数10万部突破という、大ヒットを記録している一冊がある。今回はそれを紹介したい。
 ――と、まるで話題になっていることを知って手に取ったように書き始めたが、実はまったくの前情報なしで書店にて出会った。そこでまずおどろいたのが、本の小ささ。手の平に乗るほどのスマホサイズ。そしてスマホよりも薄い。だから軽い。『口に関するアンケート』というタイトルからも、これが小説なのかも正体がわからない。この興味を引くタイトルと、その通りの口元をデザインしたインパクトのある表紙からつい目が離せなくて購入する。
 背筋さんが、今人気のホラー作家さんであることは存じ上げていたのに。ついこの変わった本の作りに、ガードが緩んでしまっていたのだろう。ホラーが苦手なのに、わたしは、本を開いてしまった。

「肝試しになんて行かなければ、杏は死ななかったと思いますから」。
 いきなり始まった。ぜったい怖いじゃないか。警戒するが、【201908262310.m4a】と音声データを示す題から始まる語りはテンポが良くて、ついサクサクと読んでしまう。なるほど、さまざまな関係者の証言が続いていく構成なのだろうと想像する。そしてこの真相に迫っていくのだろう、と。
 最初は、杏と肝試しに参加したという村井翔太が“あの日”について語る。有名な心霊スポットに、大学の友達数名で行ったこと、自分がトップバッターで肝試しに挑戦したこと、そしてその1カ月後、行方不明だった杏がその心霊スポットで発見されたこと。それは自殺だったこと……。
 次は、川瀬健がそこにある呪われた木で見た女について語る。伊藤竜也は、彼女である杏と当日喧嘩していたことや、肝試し後の翔太の様子が明らかにおかしかったこと、それから不可解なことが多々起こるようになったことを語っていく。他には、杏からいろいろ相談を受けていた原美玲、オカルト研究部の堀田颯斗がそれぞれの見たこと、知っていることを明かしていく。
 さて何があったのか――。ほんの60ページほどで震える展開であった。
 背表紙に不気味にさり気なく書かれた〈口は災いのもと〉の意味を考えさせられる。

 そのタイミングで、巻末に2ページほどのアンケートが現れる。【口に関するアンケート】だ。そうだった、このタイトルに惹かれて手に取ったはずなのに、すっかり忘れていた。
 問1は、まさに〈口は災いのもとだと思いますか?〉である。〈口は災いのもと〉の意味を考えていたところだが、「はい」とも「いいえ」とも言い切れない。一旦、三つ目の選択肢「わからない」を選ぶ。
 問2は〈前掲の創作怪談の内容を他の人に伝えようと思いますか?〉。「はい」だから、ここで紹介している、のだが、アンケートを最後まで回答した今、実は紹介するかを躊躇した。
 そう、アンケート形式だからとさくさくと回答していくと末恐ろしい結末が待っているのだ。わたしが序盤に想像した構成や物語の展開への見事な裏切り、さらに奥の奥の真相が浮かびあがってくる仕掛けには鳥肌が立った。
 実は60ページの物語よりも、ラスト2ページのアンケートの方が怖い。怖いのに、また冒頭から読み返したくなる中毒性。口は災いのもと。だけどやっぱり問2は、「はい」だ。

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