『歴史学はこう考える』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『笑いで歴史学を変える方法 歴史初心者からアカデミアまで』
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『歴史学はこう考える』松沢裕作著/『笑いで歴史学を変える方法』池田さなえ著
[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)
愛好者・学者 対話ひらく
「ひらく」という言葉が好きだ。閉じていた扉を開き、知を啓(ひら)き、新たな世界が拓(ひら)かれていく。この秋、歴史学をひらく本が二人の日本近代史研究者によって著された。
二冊がほぼ同時に現れたのは偶然ではない。昨今、広く愛される歴史と、学者が取り組む歴史学のあいだにきしみが生じているからだ。この危機を前に、一歩踏み出して対話の道をひらこうとする強い決意が込められている。
『こう考える』は、歴史学がある立場の正当化に「役に立って」、際限のない論争を引き起こしてしまうことを懸念する。
これに対し、著者は結論への直感的な賛否ではなく、根拠と過程を理解する必要を説き、歴史学者が何をしているのかを丹念に示していく。前置きをし、史料を示し、その意味を説明する。もちろん論者によって関心は異なるが、それが史料という共通の対象とこの手続きによって結びつけられる。
『笑いで変える方法』は、歴史を愛する人と歴史学のあいだに、コミュニケーションギャップが生じていることを強く懸念する。
近いはずの両者がぶつかりあってしまうのはなぜか。やっかいなのは、疑うことで発展してきた科学と、物語として叙述する文学の二面性が歴史学にあるからと解く。物語性で惹(ひ)きつけながら科学の面で突き放す。突き放された人は傷つき、怒りも覚える。
この隘(あい)路(ろ)をひらくため、著者は歴史を愛する人たちには学会や論文のルールを、歴史学者には歴史を愛する人のさまざまなアプローチを丁寧に示していく。互いの真(しん)摯(し)さにふっと笑みが浮かぶ。そんな未来が少し見えた。
「ひらく」は、割る、砕くという意味も持つ。わだかまりや疑念をひらくにはそれぞれの言葉を交わし、理解する場が欠かせない。そうした対話に向けた確かな一歩が踏み出された。(ちくま新書、1034円/星海社新書、1650円)