石破茂新総理がまだ“下っ端”だった頃の「すべらない話」を著作から集めたら見えてきた 「大物議員」たちの素顔

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石破茂氏

 回顧録や自伝など著名人の著書の魅力の一つは、他の有名人についての意外なエピソード、ちょっとした裏話を楽しめるという点だ。

 10月1日、第102代内閣総理大臣になった石破茂氏は、現役の政治家としてはかなり著書が多い。いずれの本も、メインは政策や政治信条に関する記述なのだが、ところどころに大物政治家との交流エピソードや人物評も綴られており、読み物として楽しめるようになっている。

 読書好きの石破氏ならではの読者へのサービス精神の発露とも言える、そんなエピソードの数々を著書の中から抜粋してみよう。石破氏は、これらエピソードを自らの口で語る際には時にモノマネもまじえて再現する。いわば石破総理版「すべらない話」集なのである。
(以下、引用はすべて石破氏の著書より)

 ***

田中角栄の命令


田中角栄氏

 石破氏が何度も取り上げてきたのは田中角栄元総理とのエピソードだ。鳥取県知事だった父親・二朗氏の葬儀後、石破氏は角栄氏に政界入りを勧められたのは有名な話だが、勧誘というよりは命令に近かったことがよくわかる。

「父の葬儀は鳥取では県民葬として行なわれ、続いて東京で前代未聞の『派閥葬』が行なわれました。病床の父が田中先生に『葬儀委員長になってくれ』と頼んだ約束を果たすため、自民党葬ではなく『田中派葬』を執り行なって下さったのです。場所は青山斎場。たいへん大きなものでした。
 その数日後に、田中先生にお礼のあいさつに行った時に、私は突然、選挙に出ろと言われます。

『君が衆議院に出るんだ』
 
 出てみないか、ではなく、「出るんだ」です。もう決まっているのです。私は銀行に勤め続けたいと言ったものの、まったく聞いてはいただけません。

『何が銀行だ! 君は代議士になるんだ。お父さんがこれまで築いてきたものがどうなってもいいのか。君のお父さんは、これまで鳥取県民のお世話になってきたじゃないか。知事を15年やり、参議院7年、さらに大臣も務めた。君は自分さえ良ければいいのか。そんなことで君ねえ、石破二朗の倅とは言えないよ』

 総理の座から降りていたとはいえ、この頃の田中先生の力には絶大なものがありました。国会議員だって逆らえないのに、20代のただのあんちゃんだった私が逆らえるはずもありません。その後、紆余曲折を経ながら、私は田中先生の下で政治家を目指すことになりました」(『政策至上主義』より)

竹下総理の教え

 その田中派の幹部、近年はDAIGOの祖父として知られる竹下登元総理の有権者との接し方からは大いに学んだという。

「田中元総理や竹下元総理のところには、みんながいろいろな陳情に来ていました。もちろん、全ての希望を叶えることなど出来るはずがありません。
 それでも『田中先生が聞いてくれた』『竹下先生が聞いてくれた』というだけで満足してくださる方も多くいたのです。それはやはり、『話を聞いてくれて、わかってくれた』と思ってもらえたからでしょう。
 私もかつて、竹下元総理にとても無理だと思える支持者からのお願いをしたことがあります。小渕政権の頃でした。その時、竹下先生は、
『石破なあ。竹下さんでも出来んことがあるわな。でも会わんとお前の顔が立たんのだろう。わかった』
 そう言って、地元の支持者に会ってくださいました。一所懸命に相手の話を聞き、面談時間10分の予定を20分に延長してくださった。そして帰る直前の相手に、『引きとめてすまんかった。竹下さんと写真でも撮っていくかね』と言い、記念写真を撮ってくださいました。その支持者の方は喜んで帰っていきましたが、実のところ、面談の最中も基本的には『出来んわなあ』という話をしているだけだったのです。
 それでもその方は十分納得し、喜んで帰っていきました。なるほど、これが竹下登先生というものか、と感銘を受けたものです。
 これからの日本において、政治家はうまい話ばかりは出来ないと繰り返し述べてきました。『出来んわなあ』という局面は必ず増えていきます。
 それでも相手に納得してもらえるような政治家でありたい。
 そう思うのです」(『政策至上主義』より)

新潮社
2024年10月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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