『人口減少時代の再開発』
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<書評>『人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」』NHK取材班 著
[レビュアー] 古田隆彦(現代社会研究所長)
◆半世紀前の枠組み 再編を
人口減少や消滅自治体への懸念が強まる中で、多くの都市では再開発が進み、タワーマンションが乱立している。
建物の老朽化や都市間競争などが背景にあるが、工事費の高騰で工期の延長や計画の見直しが多発している。
今後の都市造りは、いかなる方向をめざすべきか。本書はNHKの取材班が、2年余にわたる調査結果を多角的にとりまとめたものだ。
現在、再開発が行われているのは全国で129地区。7割を超える事業主体が「工事費が上昇したり、上昇が見込まれる」と答えている。
そこで、取材班は東京の秋葉原、福岡市、富山市、さいたま市など、各地の成功例や遅延例を調べ上げる。東京ではオフィスやマンションの分譲価格に転嫁しているが、地方都市では無理なため、国や自治体へ補助金の増額を要請したり、地権者の負担金増加で工事を進めている。
だが、コロナ禍以降は東京でもオフィス需要に陰りが見られ、再開発で供給が増え続ければ、全てが埋まるとは限らない。また大規模なタワマンが建設されると、交通の渋滞や災害対策の遅延、保育園や児童施設の不足、医療資源の不全など、公共サービスへの過剰な負荷も懸念される。
一方、ユニークな再開発も始まっている。東京都世田谷区の「シモキタ」では、住民参加による「支援型開発」が進み、岩手県紫波町の「オガールエリア」では、補助金に依存しない開発も登場している。
さらに神戸市では「タワマン規制」に踏み切った。中心市街地に住宅等の新築を抑える条例で、災害時の対応懸念や六甲山系ニュータウンの維持活用のためだ。人口減少時代の町づくりでは「既に行われてきた投資、既に存在しているインフラ、これをいかに活用するかが非常に大事」と同市の市長は語っている。
とすれば、都市計画法や都市再開発法など半世紀前の枠組みにも、社会変化に見合った再編が必要だろう。
都市行政の担当者や開発業界の関係者は勿論(もちろん)、再開発に関わり合う地権者や市民諸氏にもお薦めの一冊である。
(NHK出版新書・1023円)
NHKスペシャル「まちづくりの未来 人口減少時代の再開発は」を制作。
◆もう1冊
『都市をたたむ 人口減少時代をデザインする都市計画』饗庭(あいば)伸著(花伝社)