圧倒的な才能で周囲を魅了した天才少女が事故死…「演劇学校」を舞台に死の真相に迫ったミステリ作品 『少女マクベス』試し読み
試し読み
ふと気がつくと、片付けをしている生徒たちの注目を集めていた。会話の内容のせいというよりは、綾乃、綺羅、氷菜の存在そのものが原因だろう。
堂々として気品の漂う綾乃。明るい表情でぱっと目を引く綺羅。クールでミステリアスな雰囲気の氷菜。
芸能の世界ではよく「華がある」という言葉が使われるが、さやかは彼女らに会ってその意味を実感した。容姿の美しさとはまた別の次元で、自然に目が惹きつけられてしまう不思議な魅力。その人にだけ光が当たっているかのように見える存在感。まさに華であり、おそらくそれは天性のものだ。努力で手に入るものではない。
彼女らは入学したときから目立っていて、学内にはそれぞれに多くのファンもいる。実力も備えており、昨年の定期公演では三年生を差し置いて、三人の魔女という大役に抜擢された。全学年を対象にしたオーディションでみごと勝ち取ったのだ。配役は了の独断に近いもので、ともに審査を担当した制作チームの三年生からは抗議の声があがったが、稽古の途中からは静かになり、本番を迎えるころには了の慧眼を称える声に変わっていた。本来なら今日の新歓公演では、三人ともが主役やそれに準ずる役を演じてしかるべきだった。さやか自身、彼女らのマクベスやマクベス夫人を見たい気持ちも強かった。しかし定期公演での魔女役があまりにもすばらしく、にもかかわらず最後まで演じきることができなかったため、悩んだ末に今回も同じ役を続投してもらうことにしたのだ。本人たちもそれを望んだ。
「たぶんあの貴水って子は、事故の状況をよく知らないで言ってるんだと思う」
さやかが言うと、綾乃は組んでいた手をほどいてうなずいた。
「ああ、きっとそうね。それで何か誤解してるんだわ。説明してあげたほうがいいかしら。変なことを吹聴されて学校の名に傷がついたら、先生や先輩がたに顔向けできないもの」
委員長体質ー、と綺羅がからかう。
黙って聞いていた氷菜が、ふとさやかに問いかけた。
「さやかは藤代貴水の顔を見た?」
舞台の上ではおそろしく雄弁な切れ長の目は、普段はほとんど感情を表さない。
「ううん、後ろ姿だけ。なんで?」
「いい声してたなと思って」
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