圧倒的な才能で周囲を魅了した天才少女が事故死…「演劇学校」を舞台に死の真相に迫ったミステリ作品 『少女マクベス』試し読み
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四月になったばかりの今日、学校の敷地内に建つこの専用劇場──〈十二夜劇場〉では、入学式に続いて新入生歓迎公演が行われていた。
客席の興奮も冷めやらぬうちに、下りきった緞帳の前に校長が姿を現した。長嶋ゆり子。自身も百花演劇学校出身の舞台俳優であり、四十代でキャリアは二十年以上になる。春らしいパステルカラーのスーツに身を包んだ校長は、慣れた様子で壇上に立ってマイクを構えた。客席は水を打ったように静かになったが、水面下に新たな興奮が感じ取れる。
「あらためまして新入生のみなさん、ようこそ、百花演劇学校へ」
鍛えられた声で校長が告げたとたん、客席の前方中央に集められた新入生たちの空気が変わった。彼女らの感じた喜び、誇らしさ、そして重圧が、保護者席の後ろにいるさやかにまで伝わってくる。
「先ほどの入学式でも、わたしは同じ言葉をあなたがたに告げました。でもあのときといまとでは受け止めかたが違っていることと思います。みなさんはいま、あなたがたの先輩たちによる二本の公演を見ました。ミュージカルとストレートプレイ──すなわち基本的に歌唱のない台詞劇ですね。みなさんは一年生のあいだは、俳優志望、制作志望の別なく演劇に関する基礎を広く学びます。そして一年後、自分の進む道を選択することになります。脚本家や演出家など作り手を目指す制作科か、演者を目指す俳優科か。俳優科の場合はさらにミュージカル専攻か、ストレートプレイを中心とする演劇専攻か。すでに進路を決めている人はいますか?」
九十人の新入生のうち三分の二ほどが手を挙げる。のちに変わることもあるが、あらかじめ決めて受験する者のほうが多い。さやかもそうだった。最初から脚本家・演出家になりたかったし、演じる側のことを学ぶのはそのための財産だと割り切っていたものの、やはり演技や歌やダンスの授業は苦痛だったものだ。
校長は挙手した何人かを指名して、進路の希望とその動機、いま見た公演の感想などを尋ねた。マイクを持った二年生が指された生徒のもとへ走る。どこかの養成所でレッスンを積んできたとわかる発声を誇示するように答える生徒もいれば、真っ赤になって声を詰まらせてしまう生徒もいる。
「じゃあ最後に、挙手してない人にも感想を。そこの背の高いあなた。そう、あなた」
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