圧倒的な才能で周囲を魅了した天才少女が事故死…「演劇学校」を舞台に死の真相に迫ったミステリ作品 『少女マクベス』試し読み
試し読み
指されて起立したその生徒は、新入生と保護者の一団を隔てたさやかの位置から見ても、はっきりわかるほど背が高かった。百七十センチはゆうに超えているだろう。マイクを差し出す二年生を見下ろしている。全身は見えないが首から肩にかけてのラインがすらりとして、ショートカットにした頭が小さい。
「一年一組、藤代貴水です」
いい声だなとさやかは思った。声量が豊かで滑舌もいい。体型とあいまって舞台映えしそうだ。それにとても堂々としている。
「さっき挙手してなかったでしょう」
「はい、進路は決めてません。というより、わたしがこの学校へ来た目的は他にあるので」
「他?」
はい、と答えたきり続きはなかった。説明する気はないようだ。反応に困ったような空気が場内に流れる。ひそひそ言う声も聞こえたが、当人は気にするふうもない。
隣の芽衣が「何だろうね、あの子」と不思議そうにささやく。さやかは目で応えることもせず、じっと貴水の後ろ姿を見つめていた。あっさりとした口調なのに、妙な迫力を感じるのは気のせいだろうか。
「まあいいでしょう。では舞台の感想を聞きましょうか」
「万歳、マクベス!」
貴水はだしぬけに大きな声を出した。さやかは驚き、同時に何か不穏なものを感じた。
いまのは言わずと知れたシェイクスピアの戯曲『マクベス』の台詞だ。四大悲劇のひとつに数えられ、ついさっき演劇専攻の生徒が翻案のうえ『百獣のマクベス』と題して上演した演目である。
主人公であるスコットランドの将軍マクベスは、三人の魔女の予言にそそのかされ、主君を暗殺して王位を奪う。やがて彼は暴君になりはて、最大の理解者にして共犯者であった妻は心を病んで死に、最後は反乱にあって斃される──。
元の声量に戻って貴水は続ける。
「演劇専攻の『百獣のマクベス』がすごくよかったです。誰もが知ってる演目を斬新な設定でアレンジしてるのがおもしろかったし、特に三人の魔女の演技がすばらしいと思いました。強いていえば、太鼓の演出は浮いてる気がしましたけど」
芽衣が気まずそうに横目でこちらを見たのがわかった。反乱軍が迫ってくる場面に太鼓の音を入れる演出をしたのはさやかだ。新入生たちが困惑したようにちらちらと顔を見合わせている。忌憚のない感想をと最初に校長は言ったものの、普通、新入生はいきなり先輩にダメ出しはしない。
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