老子の思想は「無の哲学」か? 大胆な解釈で読む「令和っぽい」教え
――老子も有名な中国の思想家ですが、どんな特徴があるのでしょうか?
老子は、その存在自体が疑われたり生没年に諸説ありますが、孔子と同時期に生きたとされる人物です。人間関係を重視した孔子とは逆に、俗世間から離れて生きていくことができるような人でした。
宇宙とか世界がどういうふうにできているのかということを考えて、自然の法則を「道」という形而上学的な概念で表した人です。そして、その「道」から人間の生き方も説いていきました。なんだか哲学的で、自然科学っぽい考えですよね。
この老子で重要なのは「無為」という考え方です。これは、自然の成り行きに任せて何もしないという「無為自然」と解説されることが多いですが、私は違うと思っています。そもそも、『老子』に「無為自然」という言葉は出てきませんしね。
老子の教えで有名な「学を絶てば憂い無し(絶学無憂)」も、学ぶのをやめてしまえ、と解釈されることが多いですが、そんなふうに「何もするな」とだけ言い続けている人の教えを多くの人が乞うとはとても思えないですよね。
ですから私は、「無為」は「無理しないでやる」ということだと解釈しています。やらなくちゃいけないということなどはなくて、「無理なら引いていいよ」くらいの考え方なのでしょう。
まあ、これは老子を「無の哲学」と称するような通説とは違った解釈ですので、他の先生方にお叱りを受けるかもしれませんが……。でも、読者のみなさんからのお叱りは大歓迎ですので、違うと思われたらぜひご意見をお聞かせくださいね。
――「道」とか「無為」とか、老子は孔子と違って抽象的で、難しいかもしれません……。
確かに抽象的な部分はありますが、「無理しないで引いていいんだよ」という解釈をすると、とても“令和っぽい”、現代の日本に合っている考え方だと思いませんか。
『論語』はちょっとスポ根的な部分があるんですよね。「頑張って学べ、よく生きろ!」って背中を押してくれるところが、性に合わない方もいるでしょう。
そういうのが好きでない方だったり、自然科学とか物理とかに興味があって論理的な考えが好きな方にとっては、老子の教えの方がしっくりくるのではないでしょうか。
山田史生
1959年、福井県生まれ。東北大学文学部卒業。同大学大学院修了。博士(文学)。現在、弘前大学教育学部教授。著書に『渾沌への視座 哲学としての華厳仏教』(春秋社)『日曜日に読む「荘子」』『下から目線で読む「孫子」』(以上、ちくま新書)『受験生のための一夜漬け漢文教室』『孔子はこう考えた』(以上、ちくまプリマー新書)『門無き門より入れ 精読「無門関」』(大蔵出版)『中国古典「名言200」』(三笠書房)『脱世間のすすめ 漢文に学ぶもう少し楽に生きるヒント』(祥伝社)『もしも老子に出会ったら』『絶望しそうになったら道元を読め!』『はじめての「禅問答」 自分を打ち破るために読め!』(以上、光文社新書)『禅とキリスト教 人生の処方箋』(共著)『禅問答100撰』(以上、東京堂出版)『龐居士の語録 さあこい!禅問答』(東方書店)『物語として読む全訳論語 決定版』『哲学として読む 老子 全訳』(トランスビュー)など。
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