「今のままでいい」という人に動いてもらうには? シャープ亀山工場初の女性管理職が考える「リーダーの役割」

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写真はイメージです

「チームをうまくまとめられない」「部下が思うように動いてくれない」……人知れず悩みを抱えるリーダーは意外と多いもの。国内外の電機メーカーで技術者として20年以上勤務し、多くの部下を育て上げた深谷百合子さんも、かつては悩めるリーダーのひとりでした。試行錯誤しながら自分らしいリーダーのあり方を見出し、現在、企業や各種団体のリーダー研修にたずさわる深谷さんに「リーダーの役割」について伺いました。

※本記事は『不安が消えてうまくいくはじめてリーダーになる女性のための教科書』(深谷百合子 著)より一部抜粋・再構成しています。

「任せる」ことは成長の機会を与えること

 突然、降ってわいたイレギュラーな仕事。メンバーはみんな忙しいのにお願いするのは気がひける。そんなふうに思ったことはありませんか?

 私も、なかなか人に任せられないリーダーでした。なんでも抱え込んでしまうことに悩みつつ、あるとき「相手のために何ができるか」と見方を変えてみたら、メンバーに「負担をかける」ではなく、「成長の機会を与える」と考えられるようになりました。

メンバーに成長してもらうというのは、「その人をプロデュースする」という感覚に近いですね。すると、「この仕事はAさんの強みを生かせそうだな」とか、「Bさんには、こんな仕事をお願いしたら、力を発揮できるかも」とアイディアが次々と湧いてきます。

 この感覚になると、「任せる」ことに対する苦手意識はなくなってきます。たとえば、工場でチームを任されていたとき、メンバー一人ひとりの顔を思い浮かべながら「得意なことリスト」をつくっていたら、「こんな仕事をしてもらったらいいかも」と考える楽しい時間になりました。

「得意なことリスト」をもとに業務を割り振る

 私のチームメンバーの多くは、「計画通りに機械の点検を進める仕事」に携わっていました。作業を正確に行うことや効率を上げるなど、工夫の余地がある仕事ですが、私はメンバーに対して、「決められたことを決められた通りにやる」だけでなく、もっと新しいことにも取り組んでほしいと思いました。そこで、「得意なことリスト」をもとに、さまざまな改善業務を割り振ることにしました。

 知識も経験も豊富なメンバーには、新入社員向けの教育カリキュラムをつくって、実際に教育もしてもらいました。パソコンの得意なメンバーには、トラブル対応の履歴をデータベース化する仕事。かつて生産部門にいたメンバーには、生産装置の情報をわかりやすくまとめた資料をつくってもらう……というような感じです。

 関係者を巻き込んで仕事を進めることが得意なメンバーには、テーマだけ伝えて、案をつくるところから完了まで、すべてをやってもらいました。

 仕事を頼むときには、何を期待してその仕事を任せるのかを直接伝えるようにしました。「あなたは、こういうことが得意だと思うから」というような、ボンヤリした内容ではなく、具体的な事実を添えて説明するのがポイントです。

 たとえば、「難しい用語を、新人にもわかりやすい言葉で説明していたから」というように、「この人、こういうことが得意そうだな」と自分が感じた出来事を伝えるのです。そのほうが、相手も納得しやすくなります。

目の前のメンバーの未来を見る

 とはいえ、なかには「今さら新しいことをするのは億劫(おっくう)だ」「別に今のままでいい」と考えている人もいます。正直、手ごわいです。

 そこで、「今のまま、平穏無事に1日が終わればそれでいいです」というメンバーに、「平穏無事に1日が終わると、どんないいことがあるの?」というように、「その先」を聞いてみました。

 すると、「ストレスがないから、家族と穏やかに過ごせる」「仕事以外の生活も大事にしたい」など、その人の「こうなりたい」「こうありたい」が見えてきます。

 そうした価値観、考え方を理解したうえで、「じゃあ平穏無事に1日が終わるためには、何が必要?」と問いかけていくと、「帰り間際にトラブルが発生しないようにしたい」と、何かしらの答えが出てきます。

 そこからさらに、「帰り間際にトラブルが発生しないためには、何が必要か?」「そのために、今できることがあるとしたら?」と掘り下げていきます。そうした問答の中で、その人にできそうなこと、やってもらいたいことを見つけるようにしました。

 「じゃあ、それは私がやります!」というような「ノリノリ」な感じはありませんが、「やれば自分にもメリットがある」ということは理解してもらえました。

 改善業務は、チームにとって仕事がしやすくなったり、安全性が高くなったり、効率がよくなったりというメリットをもたらします。

 成果が出たら、「これはAさんが取り組んで、改善してくれたんですよ」というように、チーム全員に共有しましょう。仕事の一環とはいえ、メンバーから「ありがとう」と言われることは、本人にとっては嬉しいものです。そういう場をプロデュースできるリーダーという役割を、ぜひ楽しんでください。

深谷百合子(ふかや ゆりこ)
研修講師/合同会社グーウェン代表。大阪大学卒業後、ソニーグループ、シャープで工場の環境保全業務を行う。2006年、シャープ亀山工場初の女性管理職となり、約40名の男性部下を抱えるが、仕事を任せられず、リーダーシップとは何かに悩む。失敗して萎縮する部下のフォローをする中で、自分らしいリーダーのあり方を見出す。2013年から部長職として中国国有企業との新工場建設プロジェクトに参画。その後、中国国有企業へ転職。動力運行部の技術部長として約100名の中国人部下を育成する。現在は、職場コミュニケーションの改善を主なテーマに、講演や研修を行っている。著書に『賢い人のとにかく伝わる説明100式』(かんき出版)がある。

日本実業出版社
2024年9月20日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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