『日本一わかりやすい宇宙ビジネス』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『日本の宇宙開発最前線』
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『日本一わかりやすい宇宙ビジネス』中村尚樹著/『日本の宇宙開発最前線』松浦晋也著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
民間主導開発 夢と警鐘
現在、宇宙開発は「官から民へ」移りつつある。こうした状況をめぐって、好対照をなす二冊が刊行されたので取り上げてみたい。いま、世界にはどのような宇宙産業があるのか。
そう考えて『日本一わかりやすい宇宙ビジネス』を開くと、ある意味で出鼻をくじかれる。イーロン・マスクのスペースX社などについてはわずかに触れられるのみで、扱われるのはほぼすべてが日本の企業だからだ。が、この本の読みどころはほかにある。まずロケット開発や人工衛星といったものだけでなく、宇宙エレベーター建設や月面都市など、まだSF小説でしか見られないようなプロジェクトまで紹介されていること。そしてもう一つ、日本の宇宙開発の父・糸川英夫からその弟子である長友信人、さらにその長友氏から現在の民間宇宙ビジネスへとつらなる系譜が示されていることだ。忘れかけていた明るい未来像、宇宙への夢がよみがえるような一冊だ。
つづけて『日本の宇宙開発最前線』を手に取ると、また予想を裏切られる。かなりの尺がスペースX社などに割かれ、日本の話になるのは後半から(だからこの二冊は、実はタイトルを交換したほうが題と内容のイメージが近くなる)。しかし、本題はかなり切実だ。日本の宇宙開発が世界から立ち遅れているというのだ。そうなった経緯として、かつて米国の貿易政策であるスーパー三〇一条によって宇宙開発の産業育成を崩されたことや、省庁の権力闘争によって貴重な年月が空費されたことなどが挙げられる。航空宇宙分野を長く追ってきた著者だからこその、さしせまった静かな迫力が感じられる。
興味深いのは、どちらの本も書いていることは嘘(うそ)ではないことだ。前者が指し示す夢も、後者が鳴らす警鐘も、どちらも現在の宇宙産業の一面であるだろう。楽観の谷にも悲観の谷にも落ちないよう、ひきつづき注視していきたい。(プレジデント社、2530円/扶桑社新書、1012円)