『あこがれ』
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君がいたから、たどりつけた
[レビュアー] ピストジャム(芸人)
誰しも、夢だったか現実だったか、はっきりとしない子供のころの記憶があるのではないか。
読書好き芸人のピストジャムは、芥川賞作家である川上未映子の『あこがれ』を読んで、幼少期の不思議な記憶がよみがえったという。
ピース・又吉直樹が文学を愛する芸人を集めて立ち上げた「第一芸人文芸部」の部員でもあり、書評家としての活動に力を入れているピストジャム。『あこがれ』に呼び起された記憶とは? そして、先日あった小学生との不思議な出会いとは――?
以下に、又吉が編集長を務める文芸誌「第一芸人文芸部」創刊準備号から抜粋して紹介する。
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『あこがれ』は、思わず本を抱きしめたくなるような愛おしさが詰まった物語。主人公は麦くんとヘガティーという小学生の男女。二人は同級生で、ともにひとりっ子でひとり親家庭。第1章は小学4年の麦くんが語り手で、スーパーのサンドイッチ売り場で働く女性に淡い恋心を寄せる。内省的な彼が、たどたどしくも懸命に言葉を紡いでいく姿に心温かくなる。第2章は小学6年になったヘガティーに語りが代わる。ふとしたきっかけで、彼女は自分の家族の秘密を知ってしまう。消化できない思いを抱えた彼女は、ある行動を起こすことを決心する……。
子供のころ、夜中に目が覚めて急に怖くなって母の寝室に逃げ込んだら、母がおらんくてパニックになった。はだしで家を飛び出して、泣きそうになりながら外にある大きな物置の扉を開けると、母は中でたばこをくゆらしていた。
あれは夢やったんちゃうかといまでも思う。そんな古い記憶が呼び起こされた。
先日、知り合いのデザイナーに誘われて展示会に行った。展示会なんてめったに行かへんし、自分みたいにバイトしながら生活してるもんには場違いなとこやと自覚しつつ、ひととおり服を見て、購入するものを決めて会計した。
すぐに帰ってもよかったのだが、さすがにそれは失礼かなと思い、手持ちぶさたな状態で会場のすみでぼおっとしてた。そしたら、ある少年に声をかけられた。