■作品が生まれたジョージアってどんな国?
――原作者の出身地、ジョージアはかつて「グルジア」と呼ばれていた国ですよね?
はい。日本では長らくロシア語風の呼称「グルジア」と国名表記をしていましたが、同政府からの要請で、2015年から公式に英語呼称の「ジョージア」を使用するようになりました。
ジョージアは、ロシアとトルコに挟まれた黒海に面した国で、旧ソ連の共和国の一つでした。面積や人口から言えば小さな共和国でしたが、ソ連の支配者スターリンと80年代のソ連外相シェワルナゼを輩出した政治大国でもあります。日本では、元・大関の栃ノ心やプリマドンナのニーナ・アナニアシヴィリも有名です。なお、ソ連崩壊後、ロシアとの関係で言えば、2008年に武力衝突が起きてから国交を断絶しています。そんなことから呼称を「ジョージア」に、という要望があったんですね。
独自の文字や言語、それに独立キリスト教会を持っているとても歴史の古い民族でもあります。ジョージアの文字を皆さんにも見ていただきたくて、日本語版にも本の原題 ზოლემია (ZOLEMIA) を入れているんですよ。
特産品で有名なのはワインです。出土した土器から約8000年前のワインの痕跡が見つかり、それが世界最古ということで「ワイン発祥の地」と言われているそうです。
また、最近では、牛丼チェーンの「松屋」がジョージア料理の「シュクメルリ」を提供して話題になりました。ニンニクをたっぷりきかせた鶏肉シチューといった感じの料理で、美味しいと評判になっていましたね。
――シュクメルリはXなどSNSでも盛り上がっていましたね。
SNSというと、ジョージア駐日大使のティムラズ・レジャバさんも日本で有名です。Xのフォロワーが33万人以上もいる「バズる大使」と呼ばれています。
実は、この絵本を日本で出版するにあたってレジャバ大使のSNSに助けていただいたことがあるんです。刊行時にジョージアの出版助成を申請したのですが、当時はコロナ禍で国際郵便がストップしてしまい、出版後の絵本をジョージアに送ることができませんでした。絵本が届かなければ助成金は却下だと言われていたところ、レジャバ大使が娘さんとこの絵本を読んだときの写真を当時のTwitterに載せてくださって、それを根拠として助成金が認められたんです。
――すごいですね! あの「バズる大使」が絵本の出版に一役買っていたとは。
さらに、昨年末に増刷が決まったときも、「成長した娘と写真を撮り直し」といってまた投稿してくださいました。大使のみならず、ジョージア・ファンの皆さんや、ジョージア・フェスティヴァル(2022年と2023年に開催)を訪れた方たちにもこの絵本を応援していただきました。
――レジャバ大使は人生の大半を日本で暮らしてきた方だそうですが、ジョージアに暮らす人々はどんな人たちなのでしょうか?
とにかく大らかで人なつっこくて、懐がふかい! 外国人である私たちのことも温かく受け入れてくれます。人口は静岡県と同じくらいの400万人弱で首都のトビリシも100万人ほどなのですが、「もしかして、みんな知り合い?」と思うようなことがとても多いです。私たちがジョージアの出版社をまわって絵本を探していたときも、「あそこの出版社に親戚がいるから行くといいよ」とか、「誰々は、小学校のときの同級生なんだ」と、次々と紹介してもらいました。
――シマウマとうさんが初対面のキリンくんに親身になる姿には、ジョージアの国民性が反映されているのかもしれませんね。
そうかもしれません。絵本作品を読むとき、国や作者とは関係なく、絵やストーリーに惚れ込むのも素敵だと思いますが、絵本を通して、ひとつの国や文化を知るというのも楽しい読み方だと思います。
今はインターネットを使えばどんな国や地域の情報も簡単に調べられます。でも、きっかけがないと興味をもって調べようと思わない。絵本や物語が、異文化を知る「窓」のような存在であれば嬉しいですし、今後もそうした絵本をみなさんにお届けしたいと思います。
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絵本は文字数が少なく、ストーリーもシンプルな分だけ、読者が自分なりの楽しみ方や読み方をする余地が大きいという魅力があります。そうやって自分で教訓や結論を得る体験は代えがたいものです。『シマをなくしたシマウマとうさん』はそんな楽しみ方を味わう恰好の1冊と言えるかもしれません。子どもと一緒に「考察」をするという楽しみ方もできそうです。
さらに今冬、ゆぎ書房からは『13人のサンタクロース アイスランドにつたわるクリスマス』が刊行される予定です。「赤い服の陽気なサンタ」像が世界的に流布する前から息づいてきた、トロールのようなサンタクロースたちが描かれ、昔のアイスランドの人々の暮らしが見えてくる作品になっています。絵本で楽しみながら、北欧の島国・アイスランド文化についても知ることができる一冊です。
【原作者について】
ソポ・キルタゼ
1988年ジョージアの首都トビリシ生まれ。イラストレーション、版画のほか、アニメ制作にも携わる。2005~2012年にトビリシ国立芸術アカデミーでグラフィック・アートを学ぶ。2012年ウィーン・アートフェアほか出展多数。2011年に最初の絵本作品となる本書を出版した。
【訳者について】
前田君江
ペルシア文学研究・絵本翻訳に携わった後、2020年にゆぎ書房を創業。自身の翻訳絵本として、『ラマダンのお月さま』『イードのおくりもの』『石たちの声がきこえる』『ぼくのなまえはサンゴール』(共訳)。2007年より東京大学教養学部非常勤講師。
前田弘毅
グルジア(当時)の科学アカデミー東洋学研究所に留学(1995,97,99-2001年)。都立大学人文社会学部教授。著書に『イスラーム世界の奴隷軍人とその実像』、『グルジア現代史』、共訳書に『第二のオスマン帝国』ほか多数。新潮社フォーサイト、Japan Business Pressに記事を連載。
【ゆぎ書房について】
「世界を旅する翻訳絵本の出版社」。難民をテーマとした絵本、ジョージア絵本のほか、朱位昌併氏が翻訳するアイスランド絵本の刊行を継続。アイスランドのホストタウンである近隣・多摩市ともイベント共催する。パレスチナとガザを描いた翻訳絵本を緊急出版するためのクラウドファンディングを実施(2024年9月17日~10月16日)
※詳細はこちらから(外部サイトに移ります):https://camp-fire.jp/projects/775392
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