「男性部下の股をわしづかみにする行為」を許していいのか? 軽視されがちな“男性の性被害”に向き合う

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ただ耳を傾けることの重要さと難しさ

一方、身近な人の被害の事実を聞くことは、とてもエネルギーの要ることでもあります。その事実に圧倒され、聞いた人が打ちひしがれる思いを持ったり、傷つき混乱している友人や子ども、パートナーなどを目の前にして、ただただ「ああ」という嘆息しか出せないかもしれません。それでも、身近な人から責められず、否定されずに、ただ聞いてもらう、信じてもらう、ということが被害当事者に与える力は計り知れないものがあると思います。

被害の事実を聞くと、場合によっては被害当事者以上に加害者に対して怒りや処罰感情を抱いたり、何か行動を起こさずにはいられない気持ちになったりすることもあると思います。打ち明けられる=自分に解決を求められている、と思う人もいるかもしれません。しかし、被害当事者にとって、誰かに被害を打ち明ける動機はさまざまです。もちろん警察に訴えたい、という人もいるでしょうが、自分の気持ちをどうにも持て余して、ただ吐き出したいという人もいるでしょう。男性の被害者は、女性の被害者以上に孤独を感じている可能性があります。そのような意味では、あまり力みすぎず、気負わずに聞くということが大切でしょう。被害当事者として、身近な人が「何か力になりたい」と思ってくれていること自体がとても心強いことでもあると思います。

しかし、聞く側の気持ちが強すぎて、被害当事者の思いを置き去りにして突っ走ってしまうと、被害当事者の意思を踏み越え、第二の「侵襲」になってしまう危険性があります。何かをする/しないについては、時間がかかっても、まずは被害者本人の意思や選択を第一に考える必要があります。

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女性同様、男性も何の落ち度もなく性被害に遭う可能性はある。法務省による令和5年版の犯罪統計「犯罪白書」によると、強制わいせつ被害者のうち13歳未満では12%が、13~19歳で5.1%が男性だった。

「男だから」とか「男らしさ」を捨てて、男性の被害に正面から向き合うべき時が来ているのだろう。

宮崎浩一(みやざき ひろかず)
1988年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院人間科学研究科博士課程後期課程。研究テーマは男性の性被害。臨床心理士、公認心理師。

西岡真由美(にしおか まゆみ)
1976年、佐賀県生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程研究指導認定退学。臨床心理士、公認心理師、看護師、保健師。

Book Bang編集部
2024年9月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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