戦死した父、無知で疲れ果てた母…幼少期の「カミュ」に深く刻まれた貧困と窮乏の不条理とは?『NHK100分de名著ブックス アルベール・カミュ ペスト』試し読み

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【註釈】
*1 モンドヴィ/チュニジア国境に近いアルジェリア北東部、地中海岸から三十キロほど内陸にある町。独立後、名称は「ドレアン」とアラブ名に変わった。

*2 マルヌの戦い/開戦間もない一九一四年九月、パリ東方のマルヌ川河畔で、殺到するドイツの大軍をフランス軍が食い止めた一連の戦闘。ドイツの短期決戦計画は挫折し、戦争は長期化した。

*3 ミノルカ島/地中海西部の島、「メノルカ島」の英語読み。マヨルカ(マジョルカ)島などとバレアレス諸島を構成する。支配には変遷があったが、十九世紀初め以来、スペイン領となっている。

*4 オラン/アルジェリア西部、地中海に面する同国第二の都市。十世紀にイスラム教徒が建設。フランスの植民地時代(一八三〇~一九六二)には、鉱・工業製品の輸出入港として発展。周辺にはヨーロッパ人が多数入植した。

*5 三好達治/一九〇〇~六四。詩人。モダニズムの手法を取り込んだ現代抒情詩で、日本の伝統詩の新しい展開をはかった。詩集『艸(くさ)千里』『一点鐘』など。詩「郷愁」は第一詩集『測量船』(一九三〇)所収。

*6 フェルナンデル/一九〇三~七一。フランスの喜劇俳優。寄席芸人の子で、幼い頃から舞台に立つ。五〇年代の映画シリーズで演じた陽気な田舎司祭ドン・カミロが、最大の当たり役となった。

*7 『最初の人間』/一九九四年(没後三十四年)刊行のカミュの遺著。亡き父親の生の軌跡をたどろうとする発端から、自伝的要素が強い。書名は、頼れる人間もいないままに、自分一人で成長していく人間の含意と解される。

*8 スペイン内戦/一九三六~三九。スペイン共和国の人民戦線政府に対し軍部・右翼勢力が反乱蜂起して起きた内戦。ドイツ・イタリアの援助を受けた反乱軍が勝利し、フランコ将軍が統領として長期独裁体制を築くこととなる。

*9 ヘミングウェイ/一八九九~一九六一。アメリカの小説家。『日はまた昇る』(一九二六)で評価を確立。三七~三八年、新聞特派員としてスペインに渡り内戦を取材。その経験をもとに、反ファシスト軍に参加したアメリカ青年の戦いと恋と死を描いた小説『誰がために鐘は鳴る』(四〇)を書いた。

*10 高等中学校(リセ)/国立の中等教育機関(一八〇二年設置)。フランス人の子弟に古典人文教養を授ける機関として、フランスの学校制度の中枢とされた。カミュが通ったリセ・ビュジョーは一八三三年設立のアルジェで最も古いリセ。

*11 ジャン・グルニエ/一八九八~一九七一。作家・思想家。各地で哲学・文学を教えつつエッセー・小説を書く。一九三二~六〇年にカミュとの間で交わされた二四〇通にのぼる書簡を集めた『カミュグルニエ往復書簡』(八一)がある。

*12 アルジェリア人民党/アルジェリア生まれの民族解放主義者・人民社会主義者のメッサリ・ハジが一九三七年に組織した民族主義政党。貧困地区で大きな支持を得るに及び、共産党はハジを「封建的支配階級の代表」と非難し、敵対した。

*13 パスカル・ピア/一九〇三~七九。フランスのジャーナリスト・詩人。カミュに絶大な援助を与えたこの先輩を、カミュは「兄」のように信頼し、『シーシュポスの神話』(一九四二)を捧げている。

*14 『カリギュラ』/実在のローマ皇帝カリギュラ(在位三七~四一)をモデルにした戯曲。一九四五年初演。皇帝カリギュラは妹で愛人のドリュジラの死を契機として、〈人は死ぬ〉という不条理に目覚める。神々の残酷さに肩を並べるため、彼は暴君となり、反抗を押し進めようとするが、暗殺される。

*15 『シーシュポスの神話』/初期の哲学的エッセー(一九四二)。人間存在と世界との関係を〈不条理〉と捉え、これが人間にとっての出発点であり、この出発点を不断に意識して行動することにより、初めて人間的意味が生まれてくると説く。

*16 ガリマール社/フランスを代表する文芸出版社。一九一一年、ガストン・ガリマールを責任者に、文芸誌「新フランス評論(N・R・F)」の出版部として発足。ジッド、プルースト、サルトル、マルロー、フーコーらの著作を出版。

*17 レジスタンス/〈抵抗〉を意味するフランス語。固有名詞としては、第二次世界大戦中、枢軸国(とくにナチス・ドイツ)占領下の諸国・諸地域(とくにフランス)において、主として民間人がゲリラ的手法で占領支配に抵抗した運動を指す。

*18 サルトル/一九〇五~八〇。フランスの哲学者・小説家・劇作家。第二次大戦直後、「実存主義」を提唱。また「アンガージュマン(社会参加)」を説き、のちマルクス主義に接近。哲学論文『存在と無』『弁証法的理性批判』、小説『壁』『自由への道』、戯曲『悪魔と神』『出口なし』など。

*19 『誤解』/戯曲。一九四四年初演。田舎で小さなホテルを営むマルタと母親は、この地平線のない日陰の国から、太陽と海の国に行く金を得るため、いつものように旅人を殺す。しかしじつは旅人は成功して戻ってきたこの家の息子だった。母親はあとを追って死に、残されたマルタは、自分の犯した罪に苛まれたまま、この世を呪う。

*20 マリア・カザレス/一九二二~九六。スペイン生まれの女優。人民戦線政府(三六年成立)初代首相カザレス・キローガの娘。スペイン内戦でパリに亡命、女優の道に。舞台のほか、『天井桟敷の人々』『オルフェ』などの映画にも出演。

Book Bang編集部
2024年8月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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