伊集院光が「めっちゃ怖い」と震えた“あの名著”にまつわる裏話も!? NHK「100分de名著」シリーズ1000万部突破記念インタビュー

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「100分de名著」の“裏方”たち(左から白川さん、秋満さん、小林さん。写真:新潮社)

 名前くらいは聞いたことがあるけれど、難しそうでなかなか読めていなかった……。そんな名著の数々を、何の予備知識がなくても100分で読み解ける、というコンセプトで人気を博している番組がNHK・Eテレの「100分de名著」だ(毎週月曜日22:25~22:50/再放送・毎週金曜日15:05~15:30)。

 初回となる2011年4月に取り上げたのは哲学の大著であるニーチェ『ツァラトゥストラ』。以降、シェイクスピア『ハムレット』や兼好法師『徒然草』といった古典文学、さらには『般若心経』に『法華経』、『旧約聖書』、『新約聖書』などの宗教書まで、毎月1テーマずつ、幅広いジャンルの名著をたくさん紹介してきた。

 番組の司会を務める伊集院光さんとNHKアナウンサーの安部みちこさんが、視聴者目線の質問を指南役に投げかけることで、名著への理解をより深めてくれる。「人生を豊かにする」教養・エンターテインメントというまさにNHK・Eテレの王道を行く人気番組と言えるだろう。

 放送に先立って書店に並ぶ「100分de名著」テキスト(月刊)、およびそこから生まれた関連書籍も好評で、今春ついにシリーズ累計1000万部を突破したという。これを記念して、NHK出版の担当編集である小林潤さんと白川貴浩さん、2014年から番組プロデューサーを務める秋満吉彦さんの3人に、「100分de名著」の“制作秘話”を聞いた。

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“番組ありき”ではないNHK「100分de名著」の意外な制作秘話


シリーズ累計1000万部を突破した「100分de名著」テキストと関連書籍(写真:新潮社)

――まず番組とテキスト・関連書籍の基本情報と、それぞれの役割などを教えていただけますか?

小林:「100分de名著」では、毎月、1冊の名著やテーマについて、1回25分・月4回の放送で取り上げることで、計100分でその名著やテーマについて学べるようになっています。

 「100分de名著」の番組テキストは、放送の前月末には発売されますので、放送時に副読本としてご利用いただけるようになっています。さらに、反響が大きかった名著やテーマは、放送の2、3年後をめどに「NHK100分de名著ブックス」や「別冊NHK100分de名著」という形で出版しています。

白川:特に近年は非常に好評で、すべてのテキストを書籍化できるくらいだと感じています。書籍は、雑誌であるテキストより書店に長く並べてもらえるので、より多くの方に触れていただけますし、書き下ろしの追加コンテンツ等も収めているので、さらに深くその名著やテーマについて知っていただけるものになっています。


番組プロデューサーの秋満さん(写真:新潮社)

秋満:番組ありきだと思われがちですが、実はテキストを作っているNHK出版のメンバーも番組制作に大きく関わっているんです。取り上げる名著やテーマ、解説してくださる講師の選定については番組プロデューサーとして私が企画するのですが、実際にどのような切り口で構成するかについては、講師の先生との打合せの段階から、番組スタッフだけでなくNHK出版の小林さん、白川さんたちが一緒になって練り上げていき、全4回の詳しい内容については、番組に先行してテキストから作っていくんです。ですから、私が番組の青写真を描き、テキストを制作するなかでそれが膨らんでいくイメージですね。

 2011年の放送開始と同時期にテキストの出版が始まり、番組が長く続いているのには、テキストが好評であることが大きいんです。

伊集院光さんが「めっちゃ怖い」と震えた名著も……

――扱った名著の中で、特に印象深かったものはありますか?


伊集院光さんが震えたというアルベール・カミュ『ペスト』(中条省平)

秋満:特に思い入れがあるのは、アルベール・カミュ『ペスト』ですね。新型コロナウイルスのパンデミックが起こった2020年の放送が話題になりましたが、これはアンコール放送で、最初の放送は2018年、つまりコロナ以前だったんですよ。企画提案をした当時の会議では、「なぜより有名な『異邦人』じゃないんだ?」なんて声が上がりましたが、テーマをペストの流行というパンデミックの側面からずらして、全体主義的な側面に焦点を当てて現代を読み解きたくて、ちょっと頑張って企画を通しました。

 その2年後に新型コロナウイルスのパンデミックがあり、多くの視聴者からご要望を受けてアンコール放送したところ、ほぼ同時に緊急事態宣言が出て行動制限なども実施され、「ペスト」で描かれた厳しいロックダウンの状況が現実と重なるようでした。

 この時ばかりは、司会を務める伊集院光さんも「名著ってめっちゃ怖いよね。ちょっと震えたよ」と驚愕されていました。

――まさに、「名著の力」が見えた瞬間という感じですね。

秋満:私は、名著というものは“現代を読む教科書”たりうると思っています。現代性を名著から読み解くということは、番組作りのコンセプトとして常に意識するようにしていますね。

 伊集院さんのエピソードを他にもご紹介すると、2014年12月にシェイクスピア『ハムレット』を扱った回で、伊集院さんが先生の解説を聞いて、「自分だったらこんな風に思うんです」と述べた感想が、どの研究者も指摘していなかった斬新な解釈だったんです。専門家である先生が「この解釈で論文1本書けるかもしれません」って言うくらいですから、本当にすごいですよね。

 伊集院さんご自身は「中卒の無知な人間が専門家の先生にぶつかると、たまにビックバンが起こるのかもしれませんね」と面白い表現をしていました。こんな瞬間があることが、番組を作っている醍醐味だったりもします。

――テキストチームとして印象に残っている名著はありますか?

白川:私は、どれか1冊というよりも宗教書全般の受け止められ方が印象に残っています。

 宗教書を扱った回のテキストは、安定して支持を得られていて、どれも売れ行きが好調です。きっと、人生に行き詰まった時、最後の最後に支えとなるのが宗教だからだと思います。ただ、一般の読者が初読でわかる宗教書って決して多くないですよね。

そんな時に、例えば『法華経』について学びたいと思ったら、番組のテキストや「NHK100分de名著ブックス」を手に取っていただければ、基礎知識のない方でもわかるようになっています。同じように、『歎異抄』なども反響が大きかったですね。

Book Bang編集部
2024年8月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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