大人が子どもを「管理」したがる現代だからこそ…養老先生が「子どもには虫を見てほしい」と強く願うワケ

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手入れのし過ぎが問題


養老孟司さん

 ひとくちに虫といっても自然のなかで生まれてきたその姿は実にさまざま。本展のタイトルは虫の字が3つ集まった「蟲」で、その世界はまさに生物の多様性そのものだ。

 展覧会を開いたきっかけは都市化の進む世界で虫の激減など、自然が変化していることへの危機感にあった。7月8日に開かれたオープニング記念レセプションで養老さんは、「寺社が多く、自然が保護されてきた鎌倉でも、最近は、葉っぱを短く刈り込むなど手入れのし過ぎで虫がいなくなっている。水温の上昇で、とれる魚がとれなくなっているし、首都直下型地震も心配だ」と語った上で、展覧会を通して、「虫だけじゃなくて、身近な自然に関心を持ってもらう機会になれば」と挨拶した。

 枝や葉を叩いて落ちてくるゾウムシなどをキャッチするためのネットや吸虫管など養老さんが使う昆虫採集の道具や、栄光学園時代につくっていた鎌倉昆虫同好会の会報「KABUTOMUSHI」が出品されているコーナーで、私用で使っている顕微鏡や標本をつくる道具も持ち込まれている。

 養老さんの虫や自然、これからの時代を生きる子どもへの思いが、パネルやビデオなどで紹介されているのも本展の面白さで、随所で養老節が炸裂している。中でも思わずハッとするのは、この虫展をみた子どもたちに将来どうなって欲しいかについてビデオで語る場面で、

「僕はこうなって欲しいっていうのは一番嫌なんです」

 と語るくだりである。

 部屋は冷暖房、照明は人工、トイレは水洗とすべてを脳が生み出す意識で管理したがる「脳化」社会では、子どもという自然もあれこれ管理したがる。その問題点を『バカの壁』などで再三論じてきた養老さんは、「子どもはやっぱり好きなように育てばよい。それを本来、自由っていうんですけど、その自由を縛ろうとするんです、大人は。子どもはどうなるつもりで生まれてくる訳じゃないのです」と語っている。

 そのうえで一歩踏みこみ、

「(子どもが)思い切って、充分に枝葉を茂らせる為(注・伸び伸びと成長する、の意)には、世界をもうちょっと、きちんと、よくみておく必要がある」

 とし、本展をみることが、そのきっかけになればと話している。

 ***


『蟲??? 養老先生とみんなの虫ラボ』は9月1日まで(会期中無休)。鎌倉文華館 鶴岡ミュージアムにて。入場料は一般1500円、小中学生1000円(小学生未満は無料)

『なるようになる。―僕はこんなふうに生きてきた』(養老孟司著・中央公論新社)は、鵜飼哲夫氏が聞き手となって、養老孟司氏が自らの人生を振り返った1冊。幼少期から東京大学教授時代、『バカの壁』、虫やネコへの愛まですべてを語り尽くす。

鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

Book Bang編集部
2024年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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