大人が子どもを「管理」したがる現代だからこそ…養老先生が「子どもには虫を見てほしい」と強く願うワケ

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養老孟司さん

 この夏、養老孟司さんと「虫」に関する展覧会が、鎌倉市と大分市の2か所で開催されている。そのうちの一つ、鎌倉市で開催中の展覧会(「蟲??? 養老先生とみんなの虫ラボ」鎌倉文華館鶴岡ミュージアムで9月1日まで)について、養老さんと親交のある読売新聞編集委員の鵜飼哲夫氏がレポートする。

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「生誕の地」での虫展

 解剖学者の養老孟司さんによる展覧会「蟲??? 養老先生とみんなの虫ラボ」が鎌倉市の鎌倉文華館鶴岡ミュージアムで開かれている。虫好きの養老さんがホームグランドで企画した虫展では、虫の世界を五感で体感できる工夫が多く、夏休み中の子どもらが会場で楽しんでいる。

 会場は、昭和12年に生まれた養老さんが生後50日のお宮参りをした鶴岡八幡宮の境内にあり、建物の前にあるハス池は、少年だった頃に虫採りにきた場所である。


蟲展入り口(写真:養老研究所)

 入場してすぐに目につくのは、養老さんが好きなゾウムシのひとつ、シロモンクモゾウムシの脚先を700倍に拡大した模型である。
 
 続けて、「なんだ、これは!?」と展示を見ていくと、特殊マイクで録音した虫の音を聴いたり、虫の匂いを感じたり、五感で虫を体験できるコーナーが続く。

「博物館などが開く大きな展覧会に比べると、標本の数など展示品は少ないけれど、これまでにない感覚をもってもらえるよう、虫の視点から世界を感じてもらう工夫をしました」

 こう語るのは、展覧会の展示制作・運営に参加しているアマミヤデザインの田中麻未也さん(36)。オスのチョウから見た世界を示す展示では、メスや花粉のある場所だけはくっきりと見えるさまを画像で明らかにするなど、虫の見方と人の見方の違いをはっきりと体感できる。

 養老さんが集めたゾウムシの標本箱のほか、虫仲間の集めたカミキリムシやチョウの標本、虫アーティストによる彫刻や絵画などを展示しているスペースもひと味違う。標本箱の周りには椅子や小机が並べられ、じっくり観察し、スケッチしてもらえるように紙とペンも置いてある。


700倍に拡大したシロモンクモゾウムシの脚先(写真:養老研究所)

 養老さんは、「虫の見分けなら自信があるが、最近の若い女性の顔はどれも同じに見える」と折りにふれて語っているが、ふつうの大人たちはこれとは逆に、虫はどれも同じに見えるかもしれない。それがアーティストたちの展示を見ると、同じ虫好きでも関心がそれぞれで、見えている虫の世界がずいぶん違うんだな、ということがよくわかる。なにより、手を動かしながら標本をじっと見て、よく観察すれば、同じゾウムシであっても個体による違いがだんだん見えてくる。

〈現生人類の歴史は20万年、昆虫は3億7900万年で、生物としての時間が違います。おまけに人間は1種類、昆虫は、まだ見つかっていないものも含めると、300万~1000万種もいる〉(『養老孟司と小檜山賢二 虫本――みて、かんじて、そしてかんがえよう――』クレヴィス社、より)

鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

Book Bang編集部
2024年8月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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