『異様!テレビの自衛隊迎合』
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<書評>『異様! テレビの自衛隊迎合』加藤久晴 著
[レビュアー] 斎藤貴男(ジャーナリスト)
◆もっと警戒を 重要なヒント
「富士山を狙える。楽しいですね」
74式戦車の砲手席に乗り込むや、タレントのカズレーザーが叫んだ。陸上自衛隊・駒門駐屯地(静岡県御殿場市)。昨年11月17日に放送された日本テレビの情報バラエティー『沸騰ワード10』である。
軍事行動というものに対する疑念とか、呻吟(しんぎん)の類(たぐい)がカケラもない。「富士を撃つな」を合言葉とする地元の基地反対闘争への目配りさえも。あるのはただ、自衛隊の主導による宣伝だけだった。
第2次安倍晋三政権が発足した翌年の連続ドラマ『空飛ぶ広報室』(TBS系)あたりから、この手のテレビ番組がやたらと目立つ。世論や民主勢力の沈黙が続けば、アニメでも報道企画でもドキュメンタリーでも、要はあらゆるジャンルで「国防軍による先制攻撃が肯定され、組織的人殺しや国のために死ぬことを美化するものが放送されるだろう」と、著者は予言している。
状況を憂えたテレビマン出身のメディア研究者が、それら番組群をつぶさに視聴。内容を活写し、検証を加えた。
権力に阿(おもね)った愚劣な演出、重装備の訓練や航空ショーに「めっちゃカッコイイ!」「ブラボー!」と反応するタレントたちの無節操……。しょせんはアメリカ覇権戦略の片棒を担ぐためでしかないというのに。悲しうてやがておぞましきテレビかな、と評者は思った。
自衛隊礼賛番組の横溢(おういつ)は、1960年代以来の傾向という。東西冷戦のただ中にいた当時と、“権威主義VS民主主義”が煽(あお)られまくる今日とは酷似している。「安保3文書」の閣議決定で防衛費の倍増が国策とされた、テレビは陰の立役者であったのか。
たかがテレビ、されどテレビ。しかも昨今の防衛省は、AI技術とSNSを駆使し、ネット空間のインフルエンサーたちを誘導して特定国を敵視するよう仕向けたり、反戦機運を萎(な)えさせたりのトレンドを創出していく方針だ(共同通信22年12月9日配信)。
もっと警戒を。本物のメディアリテラシーを。重要なヒントをくれる本である。
(新日本出版社・1980円)
1937年生まれ。日本テレビなどを経てメディア総合研究所研究員。
◆もう一冊
『北富士 入会の闘い 忍草(しぼくさ)母の会の42年』忍草母の会事務局著(御茶の水書房)