<書評>『ルディ・ドゥチュケと戦後ドイツ』井関正久 著

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ルディ・ドゥチュケと戦後ドイツ

『ルディ・ドゥチュケと戦後ドイツ』

著者
井関 正久 [著]
出版社
共和国
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784907986582
発売日
2024/05/06
価格
3,740円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『ルディ・ドゥチュケと戦後ドイツ』井関正久 著

[レビュアー] 米田綱路(ジャーナリスト)

◆あらゆる権威主義に抵抗

 ドイツでは近年、政治の保守化が進む。それを象徴するのが「ドイツのための選択肢」(AfD)の伸長である。移民や難民の流入に反対し、EUからの離脱を掲げる排外的民族主義の極右政党だ。

 同党は「68年」を仮想敵にする。1960代後半に高揚した学生運動のことだが、なぜ現在ではなく半世紀以上前の運動と、その担い手の68年世代を敵視するのか。理由は多文化主義やフェミニズム、エコロジーなどリベラルな価値観の源流がここにあるからだ。そして同党が嫌うこの世代の偶像こそ本書の主人公、ルディ・ドゥチュケ(40~79年)である。

 学生運動の指導者となったドゥチュケをめぐっては、神格化や伝説化の一方で、激しい武装闘争やテロリストとの関係が取り沙汰されてきた。本書はこれまでの対照的な評価や論争の次元を超えて、ドゥチュケという人物の本質に迫る初の本格的評伝である。

 東ドイツの一党独裁体制下で育ったドゥチュケは、母の影響でキリスト教的な人道主義と平和主義になじんだ。軍隊への入隊を拒否して進学の道を断たれたために西ドイツへ移るが、両国を分断するベルリンの壁が建設され、家族と引き裂かれてしまう。

 西側の大学では、アメリカのベトナム反戦運動の影響を受けたティーチインや座り込みなどの新しい抗議スタイルが広がる。政治だけでなく生活や文化の革命を求める機運の中で、ドゥチュケは理論家として頭角を現す。著者は彼の核心に、政治体制を問わず東西ドイツに共通する権威主義への抵抗があると見る。

 ドゥチュケは反体制運動の中にも権威主義を見つけて批判した。その意味で、彼を理想主義的な運動家と捉えるのは表面的だと著者はいう。「日常のあらゆるところに潜む権威主義をあぶり出し、それと徹底的にたたかった」ところに彼の本質があるのだ。

 注目すべきは、70年代の反原発や環境の「緑」に新しい運動を求めた晩年の姿だ。自由と解放をめざす永久革命者の思想は、今日まで敵視されるほどの知的源泉なのだ。

(共和国・3740円)

1969年生まれ。中央大教授。著書『戦後ドイツの抗議運動』など。

◆もう一冊

『越境する批判的社会学者』C・F=シュトルベルク他編、青山孝德訳(こぶし書房)

中日新聞 東京新聞
2024年7月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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