『町内会』
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『町内会 コミュニティからみる日本近代』玉野和志著
[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)
地域と政治つなぐ回路
町内会とは、考えてみれば不思議な組織である。民間団体なのに、ごみ集積所の管理や防災訓練など、行政の下請け仕事のような活動を担っている。さらに加入は任意なのに、住民の全員参加に近づくことが望ましいとされる。
本書で玉野和志は、一九〇〇年前後に確立した明治の地方自治制に関して、地域の豪農層を行政に協力させることを通じ、全国にわたる細やかな統合を可能にした「芸術品」と呼んでいる。これに対して町内会は、大正・昭和初期にいわば第二の「芸術品」として登場した。当時、都市が拡大してゆく過程で、商店主や小工場主などの自営業者が、全戸加入の町の会を結成する。この組織に行政が目をつけ、同じやり方を広めていったことで町内会が成立したのである。
しかも玉野によれば町内会は、西欧諸国で労働組合が社会民主主義政党と連動することによって、大衆民主主義を支えた動きと似た機能を果たした。ただ日本の場合は、労働者による組合ではなく、むしろ自営業者となったかつての労働者が、町内会の活動を通じて行政と結びつく。そして戦時体制下で国民組織として利用され、占領軍によって禁止された時期をのりこえて、戦後に町内会は、自民党議員の後援会を支えながら、都市自営業者が政治に影響を及ぼす手段として機能したのである。
昭和初期に都市に流入した世代が戦後の町内会の中心となり、一九八〇年ごろにこの人々が老年期に入ると活動は停滞して、存続が危うくなる。これは商店街の盛衰とも重なっている。戦後民主主義の時代に町内会は、地域社会と政治体制をつなぐ回路としての役目をはたしていた。いわゆる利益政治システムの重要な要だったと言えるだろう。
だが現在では、町内会の担い手不足が嘆かれるようになっている。今後、人々が自治に携わり、政治・行政に関わってゆくような住民組織は、いかにして可能なのか。苦い現実をふまえながら、地域の来し方行く末を考えるために、重要なヒントを与えてくれる本である。(ちくま新書、924円)