なぜ「怒ってばかりいる年寄り」がたくさんいるのか? 脳の専門医がお年寄りにこそデジタルを薦める理由

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感情が弱くなるシニア(※写真はイメージです)

『退屈ボケの処方箋 脳はスマホで若返る』の著者・内野勝行医師が勤める脳神経内科にはシニア層の患者さんがたくさん訪れる。
その中には同年代と比べて若々しく元気な人もいれば、残念ながら老け込んでしまっている人もいるという。なにがその違いを生むのだろうか?運命を分ける要因のひとつが「デジタルを使いこなしているかどうか」だ。

以下、『退屈ボケの処方箋 脳はスマホで若返る』(内野勝行・著、辰巳出版)より抜粋記事を公開いたします。

■脳の作りと仕組み


脳の仕組み

人間の脳は、大きく大脳・小脳・脳幹の三つの領域に分けられます。
もっとも大きい大脳は、記憶や思考、感情、言葉、理性などさまざまな機能を司っており、担当する機能は部位によって違います。

小脳は頭の後ろのほうにあり、主に運動能力や身体を整える能力を司っています。そして脳の「付け根」にある脳幹は、呼吸や意識など、生命の基本的な機能を担当しています。

歳を重ねると、この脳が全体的に萎縮していきます。萎縮を止めるのは難しいのですが、やはり身体と同じように、栄養不足にならないように注意したり、トレーニングをしたりすることで衰えにブレーキをかけることは可能です。

そして、脳にとってのトレーニングが、刺激を受け取ったり、感情を揺さぶられたり、考えたりすることです。逆に、なんの刺激もない退屈な生活が脳に悪いのは、家にこもっていると身体の運動能力が落ちるのと同じですね。

■「怒ってばかりいるお年寄り」がたくさんいるワケ

歳を重ねていくと、喜怒哀楽の感情が弱くなっていきます。
感情の起伏がなだらかになり、それも脳が衰える要因になります。

しかし、すべての感情が同じように弱くなるわけではありません。「怒り」の感情は最後まで残り続けます。
そのせいで、怒ってばかりいるように見えるお年寄りがたくさんいるのです。

人間の脳の奥深くに「大脳辺縁系」と呼ばれる場所があります。
ここは生命の維持や原始的な感情など、本能的なものを司っています。いわば、動物としての脳といえるでしょう。
もっとも、人間の場合は高度な思考や理性を司る大脳が発達し、大脳辺縁系を包み込んでいます。だから、理性的な行動がとれるのです。

しかし歳を重ねて脳が萎縮してくると、大脳の働きが弱まり、相対的に大脳辺縁系の働きが強くなります。要するに、動物に近づいてしまうのです。

人間ほど豊かではありませんが、動物にも感情はあります。特に、動物が怒りの感情を見せることはよくありますよね。

シニアが怒りっぽくなるのはそのためです。いわば、理性を司る脳が痩せていった結果、動物としての本能が前面に出てきてしまうわけです。

そして逆に、シニアになると人間的な感情は衰えていきます。中でも弱くなるのが、「笑い」です。
笑う動物はほとんどいませんよね。笑いは、高度で人間的な感情です。そのため、脳が動物的になるシニアだと衰えやすいのです。

だからこそ、シニアにとって笑うことは、人間らしい感情を取り戻し、大脳を刺激するために大切なのです。私は、患者さんを、最低でも一回は笑わせることをノルマにしています。
一回でも笑えば、その診察は終わり。
なぜなら、笑えるということは脳が元気だということだからです。笑いが消えたら、要注意です。

■「喜哀楽」を補えるデジタル

笑いほどではありませんが、喜怒哀楽の「哀」(悲しみ)も人間的で、したがって衰えやすい感情です。
ここでいう悲しみとは、感動して涙を流すような悲しみのことです。誰でも若いころは映画や小説で感動した経験があると思いますが、歳を重ねるにつれ、そんな経験が減ってはいないでしょうか。

もし、「そういえば最近、感動していないな」と感じた方がいたら要注意です。
脳が著しく老化しているかもしれません。

このように、感情が摩耗しがちなシニアの脳にとっては、喜怒哀楽から「怒」を除いた「喜哀楽」を体験することがとても重要です。しかし、シニアの平和な日常に、感情を揺さぶられる経験はそうはないでしょう。

そこでデジタルの出番です。
パソコンやスマホでつながれるネットの世界には喜哀楽の感情があふれています。お笑いやコメディを見れば貴重な笑いを手に入れられますし、感動できる映画や映像コンテンツも膨大にあります。無料で観られるものに限っても、何千年かかっても見切れないほどの量です。

他にも、欲望を刺激するコンテンツはネットにたくさんあります。
深夜に食欲を刺激する「飯テロ」という言葉がありますが、いかにも美味しそうな飯テロ動画だけでも、無数にアップされています。
こういった動画は太りたくない若い人にとってはまさに「テロ」かもしれませんが、食欲不振や栄養不足が問題になるシニアにとっては、最高の特効薬になるかもしれません。


スマートウォッチをつけているシニア

■デジタルは心臓や血管の病気の予防にも

認知症と並ぶシニアにとっての大敵が、心臓や血管の病気です。これらの病気で亡くなる人は、がんによって亡くなる人に匹敵するくらい多くいます。
心臓や血管の病気を防ぐためには、日々の血圧や、心臓が「ドキドキ」するスピードである心拍数のチェック、さらには有酸素運動の習慣をつけることが大事なのですが、デジタル機器はそうした場面でも役立ちます。

腕時計型のデジタル機器「スマートウォッチ」ならば、数千円で買える安価なモデルでも心拍数を測定できます。歩数計もついているでしょう。したがって、日々の健康チェックはもちろん、ウォーキングなどの運動をする際にもとても便利です。

私は患者さんに、「有酸素運動をするときは、安静時の1.5倍くらいの心拍数にしてください」とよく言います。シニアの運動は、きつすぎると心臓に負担がかかるため危険ですし、逆に楽すぎると効果がありません。

したがって運動のきつさをコントロールしなければいけないのですが、心拍数はその目安になるのです。安静時の心拍数が60回/分の方ならば、90回/分くらいを目安に運動すればちょうどいいでしょう。
スマートウォッチがあれば、そのように効果的な運動ができます。

もう少し高価なスマートウォッチなら、血圧を測ることもできます。医療機器に比べるとやや精度が劣る場合もありますが、血圧は、毎日測って傾向を知ることが重要です。
そう考えると、たまに来る病院で測るよりも、スマートウォッチで毎日測ったほうがいいのです。

さらに、運動や血圧といったデータを自動的に記録し、スマホに転送してくれるモデルも珍しくありません。ノートに毎日、血圧を手書きで記録するのは大変ですが、スマートウォッチなら腕につけているだけで記録がとれます。

このように、運動や健康状態の記録を簡単にとれるデジタル機器は、シニアにとっては健康でいる手助けもしてくれるのです。

辰巳出版
2024年7月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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