この日、私がとりわけ憤慨したのは、何も生理中だからではなかった。占拠しているのが三人組だったからだ。スミスの利点の一つに、補助がいらないというのがある。スミスのバーベルはレールに沿って稼働し、必要に応じてストッパーも使えるため、フリーでチャレンジングな高重量を扱う際に必要とされる補助が不要なのである。補助はふらついたバーベルを支えたり、取り落とさないよう脇から手を添える役割だ。バーベルという二十キロの鉄棒は、ちょっと間違えると凶器になる。
何が言いたいかというと、私にとって、スミスは一匹狼のトレーニーのためにあるということだ。仲間が三人もいるなら、フリーのベンチ・プレスをすればいいじゃないか。義憤に駆られ、私は鼻息を荒くした。この真理を、あの三人組に解説してやろうか。私は揃いの色違いタンクトップに身を包む三人組を睨んだ。三人組は延々とスミスと戯れ、壁の時計を見ると、かれこれ五十分近く使い続けているではないか。
言うまでもなく、そんなことをする度胸は、私にはない。代わりにスミスの隣にあるパワー・ラックに陣取ると、当初の予定にはなかったバーベル・ワイド・スクワットをすることにした。これは単に大股で行うバーベル・スクワットだ(ちなみに「ナロー・スクワット」もある)。隣に居座ることにより、三人組に無言のプレッシャーを掛ける魂胆だった。しかし、というか案の定、三人組がこちらに注意を払う様子はなかった。
三人組のレッド(赤いタンクトップ)が、左右に五十キロずつプレートを引っ掛けたバーベルを、ぷるぷると踏ん張りながら持ち上げる。口を一文字に結んだ、思い詰めたような必死の表情だ。腕が伸び切った時、その上腕には破裂しそうな静脈が浮き上がる。規則的な荒い息遣いが、私の耳許まで伝わって来る。
「K野さん、あと三回っすっ」
「いいよおっ、いけるよおっ」
BGMが如きグリーンとイエローの声援は、奮闘中のレッドの呼気に負けぬほど熱を帯びていた。イエローが景気づけのように、パンパンと手の平を叩き合わせる。それに触発されたのか、グリーンも分厚い手の平のシンバルを打ち鳴らす。
この、猿どもっ。
私も、スミス使いたいよっ。
私が降参し、Gジムを後にしたのは、二十分後だった。
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