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- 一ノ瀬ユウナが浮いている
- 価格:660円(税込)
高校2年の夏休み、幼馴染の一ノ瀬ユウナが死んだ。
喪失感を抱えながら迎えた大晦日、大地はふと家にあった線香花火を灯すと、幽霊となったユウナが現れる。
どうやら、生前好きだった線香花火を灯したときだけ姿を現すらしい。
その日から何度も火を点けて彼女と会話する大地だったが、肝心な気持ちを言えないまま製造中止の花火は、4、3、2本と減り――。
感涙必至の青春恋愛長編『一ノ瀬ユウナが浮いている』(乙一・著)より冒頭部分を公開します!
***
───1───
浮いている彼女を見つけたのは、捜索隊の一人だった。
二十一世紀の最初の年に生まれた俺たちは、東北で震災の起きた年に知り合った。テレビから流れてきた津波の映像は、子どもながらに覚えている。ある日、突然、何万人もの方が亡くなった。その事実を、当時の大人たちは、どうやって受け入れたのだろう。
小学四年生の夏休み。例の大地震から数ヶ月が経ち、世間は落ち着きを取り戻そうとしていた。十歳の俺は、子ども会の行事に参加していた。大人たちがマイクロバスを借りて、近所の子どもたちを乗せ、地元民に有名な滝の見える公園へと遠足に出かけたのだ。
同い年でよく一緒に遊ぶ幼馴染が何人かいるのだが、たまたまその日はみんな用事があったみたいで、俺は一人でバスの座席に座っていた。はしゃいでいる子もいれば、乗り物酔いをして今にも吐きそうな顔の子もいる。
一人、知らない女の子がまじっていた。彼女は静かに窓の外を見ている。色白で線が細くて、小綺麗な服を着ていた。公園の駐車場に到着して外に出ると、遠足に参加していた大人が、彼女の手を引っ張ってきて俺に言った。
「この子、ユウナっていうの。最近、あんたんちの近所に引っ越してきたのよ。大地、一緒に行動してあげて」
ユウナと呼ばれた子は、恥ずかしそうにうつむいていた。名字は一ノ瀬。年齢は俺と同い年だという。滝の見える公園で俺たちは行動を共にすることになった。
「遠藤大地だ。よろしく」
「……よろしく」
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