自然の中へ出かけておもしろがっているのは大人たちだけだ。正直、子どもたちは退屈していた。駐車場から滝の見える広場まで、岩場の斜面を延々と歩かされる身になってほしい。俺とユウナはつかず離れずの距離感で行動した。最初のうち会話ははずまなかったが、広場で弁当を食べた後、リュックに隠し持っていた『週刊少年ジャンプ』を取り出すと、ユウナの目の色が変わった。
「それ、今週の?」
「うん」
気にせず読んでいると視線を感じる。彼女は食べるのが遅く、俺が食べ終わっても弁当が半分くらいしか減っていなかった。箸を持ったまま、じっと俺の方を見ていた。
「読みたい?」
「読みたい」
「女子なのに?」
『週刊少年ジャンプ』を読むのは男子だけだと俺は思い込んでいた。
「女子も読むよ」
「じゃあ、俺が読んだら、貸してやるよ」
「ありがとう!」
彼女が笑った瞬間、ぱっと周囲が明るくなった気がした。
彼女は漫画が好きだった。前の家では、近所に漫画好きの高校生の従姉が住んでいて、様々な名作漫画を貸してくれたという。『週刊少年ジャンプ』も従姉が購読しており、毎週、読み終えた後におさがりをもらっていたそうだ。そんな彼女の最近の悩みは、引っ越して以降、従姉から『ジャンプ』のおさがりをもらえなくなったこと。最新号を親に買ってもらうお願いをすべきか悩んでいたそうだ。
「自分の小遣いで買えば?」
「だって、お小遣い制じゃないんだもん」
「そういう教育方針ね」
「欲しいものがあったら、お母さんに言って、お金を出してもらうシステムなの」
俺は『ジャンプ』を読み終えて背伸びをする。
「ほら、読んでいいぞ」
しかしユウナは、「え、信じられない」という顔で俺を見る。
「もういいの?」
「読みたいのは読んだ」
「全部、読まないの?」
「好きな漫画だけ読んでる」
連載されている漫画のうち、目を通しているのは半分くらいだ。しかし彼女は、毎週、すべての連載作品に目を通すタイプだったらしい。というか、すべての『ジャンプ』読者がそうだと思っていたようだ。
「じゃあ、目次も読まないの?」
「目次って?」
「漫画家さんが近況を書いてるでしょう? 短い日記みたいなのを」
「ああ、そういえば、そうだな」
それまで特に気にしたことはなかったが、目次にならんでいる連載作品のタイトルの横に、漫画家たちが短い文字数で近況を載せている。
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